はじめに
こんにちは、ENKです。
クラウドプリセールス事例紹介シリーズ(計4回を予定)として、当社のクラウドに関する取り組みの一端を紹介させていただければと思います。そのため、ある程度クラウドの知識を持っている方向けの内容になりますので、予めご了承ください。
第一回目は、クラウドサービスを扱っていく上で是非知って欲しい、「クラウド・スマート(クラウドを賢く適切に利用する)」に関する記事になります。
目次
1. 現状の多くのクラウド利用形態
2. クラウド・スマートとは
3. クラウドを賢く適切に使うために
4. 適切に使われてるかを計測する
5. まとめ
6. Appendix
1.現在の多くのクラウド利用形態
昨今のITサービスの開発/構築する際は、クラウドサービスを利用することが殆どとなっている状況ですが、せっかくクラウドを利用しても期待していたコスト低減効果などを得られていないと相談を受けるケースがあります。この様なケースは、クラウドを適用していたシステムの更改時期が訪れ、現状を振り返った際に課題として明確になってきたのが背景にあると考えています。
このような課題を抱えるシステムの殆どは、約5年前位に導入したもので「クラウド・ファースト」の号令に従い、クラウドサービスへのリフト&シフト移行方針に基づき、オンプレミス環境(物理サーバー)と同じデザインを踏襲し、仮想サーバーを中心に構成されたケースになります。さらにシステムの運用状況を分析してみると、普段からクラウドサービスを扱っている人からすると驚きの内容ですが、システム運用自体もオンプレミス環境と同じように扱ってしまっているのが原因になっているようです。
- コスト分析ツールの未活用
- マネージドサービスへの代替検討不足
- 過剰なスペック割当
- 常時稼働が不必要なサーバーの稼働
- 野良サーバーやサービスの放置
- 定期的なシステム構成見直し忘れ
などなど
クラウドサービスを導入した時点で提供されているサービス内容にもよりますが、提供されているサービス活用が不十分であることが殆どの原因になっています。こういった状況だと、道具の使い方としてスマートじゃない(賢くない)のは明らかですし、せっかくクラウドを使っているのにもったいないなと思います。
2. クラウド・スマートとは
これまでは「クラウド・ファースト」の号令で、ITシステムのクラウド化が進みましたが、次の段階として「クラウド・スマート」という言い方に変わりつつありますので、そのポイントを見ていきたいと思います。
「クラウド・スマート」という言葉は、2022年12月にデジタル庁より「政府情報システムにおけるクラウトサーヒスの適切な利用に係る基本方針」の最終改定が公表され、その文書の概要に「クラウドサービスの採用をデフォルト(第一候補)としつつ、単にクラウドを利用するのではなく、クラウドを適切(スマート)に利用するための考え方」であると記載されています。時系列が少し前後しますが、5月に同庁から公表されている改定概要も合わせて拝見いただくと、単語が意図することの理解が進むかと思います。クラウドネイティブやモダナイズなどに含まれる意味ではあると思いますが、個人的にスッと入ってくる言葉なので気に入っています。
この考え方は、民間企業にも例外なく共通する内容であり、クラウドサービスを扱っていくために、正しく理解して実装および運用まで対応していく必要性を訴求している内容であると読めますので、普段から意識付けが必要になります。
昨今はリフト&シフトしたクラウド環境から、より一層、クラウドネイティブに作り替えていくのが今のトレンドになっています。現在提供されているクラウドサービスの多くが、パズルのように細かく繋ぎ合わせていく使いたかになりますが、非常に簡単に使えるように進化しており、機能の使い方を正しく知っていれば賢く使うための環境が整っています。このことは我々が関わる客様も注目していますし、クラウドサービスに係るエンジニアは熟知して活用していかなければならない技術です。
こういうのを言葉にするのは簡単ですが、実装し運用していくことは簡単ではありません。しかし、実装し運用しなければ何も始まりませんので、どのように行動していくのかを次章で整理していきたいと思います。
3. クラウドを賢く適切に使うために
結論から言ってしまうと、AWS Well-ArchitectedやMicrosoft Azure Well-Architected Framework に挙げられている内容を準じていくことで、クラウド・スマートに近づくことが可能です。このフレームワークで定義される実装や運用状態のベストプラクティスにITシステムを近づけていくことで、自然と賢い使い方になっていくと思います(Well-Architectedに関しては別の記事で詳説予定)。
クラウドを賢く適切に使うためにはWell-Architectedを正しく理解し、これを念頭に設計するのは大前提となりますが、これを理解するのは多くの時間が必要になってしまうので、今回は即効性が高い以下のポイントを挙げさせていただきます。これらは従来のクラウドサービスの活用時の期待値そのままなのですが、「対応お勧め度」が高いものから対応していくのを良いかと考えています。
賢く利用するポイント |
期待する効果 |
対応お勧め度 |
---|
効率性の向上 |
利用料低減、多様な機能利用による導入期間短縮 |
高 |
セキュリティ水準の向上 |
標準で強固な機能利用で安全にシステムを利用 |
高 |
技術革新対応力の向上 |
革新技術が随時追加される機能を利用しビジネス変化に対応 |
中 |
柔軟性の向上 |
リソース要求に応じたリソース自動変更、コストも真にフィットする最適化 |
高 |
可用性の向上 |
用意された機能利用で、バックアップ自動化からの構成自体の高可用性構成を容易に実現 |
高 |
マネージドサービスの活用によるコスト削減 |
効率性、セキュリティ、技術革新、柔軟性、可用性を予め機能と有しているサービス利用で利便性と運用性を確保 |
最高 |
サーバーを構築しないシステムにおけるセキュリティ向上とセキュリティ対策コストの削減 |
サーバーレスで脆弱性混入リスク箇所の限定 |
中 |
IaC(Infrastructure as Code)とテンプレートによる環境自動化によるコスト削減 |
インフラ構築迅速化(鉄板構成があると尚良し)、コードに対する自動テストやレビュー、バージョン管理が容易 |
中 |
尚、Well-Architectedはあくまでも理想形になり、実際は個別案件の要件や事情によりすべて満たすことは殆ど無く、実際のITシステムの位置づけより、現実解を探りながら改善していくのが実情になります。この辺りは個別最適の活動になるので難しい部分があるかもしれません。その際は、当社に相談いただければ対応方法などのご提案が出来るかと思いますので、一報いただけると幸いです。
4. 適切に使われているかを計測する
クラウド・スマートを意識してITシステムを構築しさえすれば、それで終わりということはなく、システム化に伴う期待値とおりに効果を発揮できているかを計測し、評価して継続的な改善までが必要です。この計測で必要なことは、従来のシステム運用(死活は動作不良、性能劣化などの監視)はクラウドサービスに全部任せ、その管理から可能な限り脱却し、ITシステムの管理者は、システムのサービス自体を評価していく、サービス運用(利用しているサービスの改善有無の監視)に重きに置く視点へ変えていくこと意味します。
サービス運用をもう少し説明すると、稼働するアプリケーション(UX等)も計測対象になり、ITシステムの全レイヤーをとおして、どの部分が、何に影響し、システムの価値に結び付けられているかを、運用でしっかりと状況を把握し、選り良いシステムの改善していく活動になります。
メトリクスの例は以下のようなものがあります。こちらをベースに利用システム毎に特性に応じて定義していくのがお勧めです。
ITシステムメトリクス |
説明 |
---|
コスト効率、最適化 |
投資対効率 |
弾力性 |
伸張性、拡張性を支える性能 |
性能 |
システム全体のパフォーマンス |
俊敏性 |
変化への追従性 |
加速度 |
実行の加速度 |
セキュリティ |
セキュリティ性能 |
回復性 |
復旧や回復性能 |
可観測性 |
システムの内部状況の把握性能 |
透明性 |
目的に対する貢献度合いの可視化性 |
改善性 |
改善のしやすさ |
自動化 |
自動化のしやすさ |
極端な言い方になるかもしれませんが、クラウド・スマート化が進んだ世界のシステム運用は、システムが提供するビジネス評価と改善活動のみになるのだと推測しています。そのような活動になると、自身が設計・開発したシステムが世の中の人のために役に立つことが促進されることになるので、エンジニア冥利に尽き、楽しく仕事ができるようになるのだと思います。
5. まとめ
クラウドエンジニアは、今後も技術革新が著しいクラウドサービスを適切に利用するためには「クラウド・スマート(クラウドを賢く適切に利用する)」という考えを常に意識して、日々の業務に活かしていただければと思います。