画面設計のはじめの一歩

画面を設計するとき、はじめに何をしますか?
おそらく、まずは頭の中でシナリオを考えるところから始まるのではないでしょうか。
ユーザーのしたいことは何なのか、そのためにユーザーはいつどんなことをするのか、といった風にです。
そしてそれを実現するためにはどんな画面がよいのかなどUIを検討し、最終的に設計書に落とし込んでいくといった流れになるのではないかと思います。
今回は、頭の中に描いたものをシナリオとして文章に起こし、製品やサービスの”あるべき姿”を描く「構造化シナリオ」についてご紹介したいと思います。

構造化シナリオとは

日本人間工学会アーゴデザイン部会が開発した手法で、ビジョン提案型デザイン手法とも呼ばれます。
「ユーザーが本質的に叶えたいこと=価値」と位置づけ、「価値のシナリオ」「行動のシナリオ」「操作のシナリオ」という3段階に分け、考えていきます。
また各シナリオは、バリューシナリオ、アクティビティシナリオ、インタラクションシナリオとも呼ばれます。
そのシナリオとはどんなものなのか、例を挙げながら概要を説明したいと思います。
テーマを「化粧品の新しいサービス・スマートフォンアプリの提案」とし、それぞれのシナリオをみてみましょう。

ペルソナ

シナリオを作成するにはペルソナが必要です。
ペルソナとは、対象の製品やサービスを利用する典型的ユーザーの人物像を具体的に書き表したものです。ユーザー目線で利用する状況をイメージして、構造化したシナリオを書いていきます。

名前 神田 レイカ
職業 不動産事務
年齢 28歳
性別 女性
ユーザー情報 韓国コスメやプチプラコスメに興味あり。
口コミサイトなどで常に情報収集している。

価値のシナリオ(バリューシナリオ)

ユーザーの持つ本質的な欲求と、それを満たすための最小限のシナリオを考えます。
また、そのシナリオに沿ったユーザーがするであろう利用シーンを記載します。
このシーンが次段階の行動シナリオをつなぐものになります。

本質的な欲求
1日中どんな時も朝の化粧をずっとキープしたい

 

価値のシナリオ
1日中どんな時も朝の化粧をずっとキープできる

 

利用シーン

朝、化粧する
通勤中に化粧崩れが気になる

昼食後、化粧崩れが気になる
仕事が終わって帰宅中にも化粧崩れが気になる

 

行動のシナリオ(アクティビティシナリオ)

先ほどの価値のシナリオで記述したシーンをもとに、ペルソナがどのような行動をしていくのかを記述します。ここでは具体的な製品やサービス名、細かい操作などは記述せず、情動を明確に記述することがポイントです。
そして行動のシナリオからタスクを抽出します。このタスクが、次段階の操作のシナリオをつなぐものになります。

利用シーン
朝、化粧する
通勤中に化粧崩れが気になる

 

行動のシナリオ

今日はこの夏一番の暑さになるとの予報で朝から憂鬱。せっかく朝時間をかけてメイクしても、通勤の満員電車の中で汗もかくだろうし、会社までキープできるわけではないから。

そんな猛暑日の通勤中、職場の最寄り駅に、化粧直しができるスペースを見つけた。少し中をのぞくと、仕切られたブース席があって周りからも見えないようになっている

入口前の看板に無料の利用登録すればOKと説明があったので、そこで登録をして入ってみた

そこには手が出せないような有名ブランドのサンプル品が置いてあって試用できるのが嬉しい。試したところ、化粧のノリもいいし、香りも良くって気分が良くなった。これなら、猛暑日だって乾燥がひどい日だって怖くない!

 

タスク
朝、化粧をする
電車で通勤する
スマートフォンアプリ画面から、利用登録をする
登録画面を係員に見せて、専用のパウダールームに入る
ブース内でサンプル品を使って化粧直しをする

 

操作のシナリオ(インタラクションシナリオ)

ペルソナが、どのような製品やサービスを利用(操作)して目標を達成するのかを具体的に考えます。
インターフェースの操作を箇条書きで記述します。
製品やサービスの特定の機能名を入れたり、画面であれば画面名やボタン名を決めながら具体的な操作を検討します。
この段階ではもはや画面要素自体を考えているのに等しいため、画面構成をポンチ絵に手書きするなどでも代用可能です。

タスク
スマートフォンアプリ画面から、利用登録をする
登録画面を係員に見せて、専用のパウダールームに入る

 

操作のシナリオ
  1. 利用登録の説明の看板を読み、専用アプリが必要で、無料でダウンロードできることを知った。
  2. 看板にQRコードを見つけたので、スマートフォンで読み取ってアプリをダウンロードした。
  3. アプリの新規会員登録はECサイトのID連携ができるので、オンラインストアで登録するボタンを押して、ユーザー登録を行った。
  4. アプリ側が位置情報へアクセスを許可してよいか確認してきたので、許可した。
  5. アプリに今いるパウダールームと、今すぐ利用可能な空きがあるか検索するボタンが表示されたのでボタンを押した。
  6. アプリの検索結果画面に空きが見つかったので、すぐ利用するボタンを押した。
  7. アプリに今すぐ利用可の画面が表示された。
  8. この画面を受付の係員に見せてください。という表示を読んだ。
  9. 受付の係員にアプリの画面を見せ、パウダールームに入った。

 

シナリオが進むにつれて、その内容は細分化され具体的になっていきます。
各シナリオの関係をまとめると下図のようになります。

価値のシナリオ
├ 行動のシナリオ1
│    ├ 操作のシナリオ1
│    ├ 操作のシナリオ2
│    └ 操作のシナリオ3
├ 行動のシナリオ2
│    ├ 操作のシナリオ1
│    └ 操作のシナリオ2
└ ・・・

シナリオの視覚化

文章で書かれた各シナリオをよりわかりやすく理解するために、それぞれ図式化などのビジュアルな表現やプロトタイプで表すこともできます。視覚化されたシナリオは、シナリオの理解促進や、シナリオの提案、評価などに活用することができます。

構造化シナリオの階層 ユーザー側面の視覚化手法
価値のシナリオ/行動のシナリオ ストーリーボード
ペーパープロトタイピング
アクティングアウト
操作のシナリオ ラピッドプロトタイピング
GUIのラビットプロトタイピング
ホットモックによるラピッドプロトタイピング

視覚化した資料はよりスムーズに情報共有ができますね!
操作シナリオを作成し、プロトタイプに落とし込んだら、あとは評価と改善を繰り返し、画面を完成させていくという流れになります。

さいごに

価値のシナリオ → 行動のシナリオ → 操作のシナリオ、の順に進めるとしていますが、いきなり「価値のシナリオから書いて」と言ってもなかなか進まない事も多いらしく、行動のシナリオを先に書く方がアイデアが出やすいこともあるようです。ただし、操作のシナリオから書き始めるのはNGです。これは、設計者の先入観や既存の製品などに縛られ”あるべき姿”が狭まってしまうからです。
「価値」と「行動」と「操作」の3段階に分けてシナリオを書いていくことで、当事者の思い込みではなく、ユーザー視点での設計ができます。
「ユーザーは本当に使うのだろうか?」という目線を組み込むことができるということです。

ペルソナから画面までをつなぐ「構造化シナリオ」という手法、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。

※今回は概要レベルということで省略した説明もありますので、もっと詳しく知りたい方は下記文献を参考にしてください。こちらのブログでも大変参考にさせていただきました。

参考文献