技術研究所の(あ)です。
ポケモンGO が相変わらず世間を賑わしていますね。
ポケモンを捕まえるために歩き回っている人も多いかと思います。
今回はそのへんに絡めたちょっとエッセイ風の記事です。

ポケモンGO と AR

ポケモンGO には “AR モード” があります。
AR とは Augmented Reality の略で、日本語だと拡張現実感と称されます。ポケモンGO の“AR モード”では、スマートフォンのカメラを通して、ポケモンが現実世界にいるかのように描かれます。そのような「実写映像にリアルタイムで位置合わせしつつ CG を表示する」アプリがAR と呼ばれるものとしてはとてもメジャーなので、「AR=実写+CG」だと思っている人も多いかもしれません。

しかし、“AR”とは映像的なものだけにとどまりません。音による聴覚的な AR もありますし、触覚的な AR もあります。そしてもっと本質的には、そこにあるけれどもそのままでは感知・認識できない情報を認識できるようにしたり、本来はそこに存在しないはずの情報をそこに重ねたりするのが AR なのです。

その意味で、ポケモン GO は AR モードをオフにしても、依然として AR なゲームです。なぜなら、ポケモンは実世界のさまざまな場所に紐付いて出現しますが、それはまさに「本来はそこに存在しないはずの情報」が実世界に重ねられていることを意味するからです。ポケモンだけでなく、実世界のいろいろな場所が「ポケストップ」や「ジム」として新たな意味を与えられています。もちろん、これは ポケモン GO だけの話ではなく、位置情報部分のベースとなった Ingress にも言える話です。

「新たな意味」だけで完結してしまうと、ただのおもしろいゲーム、で終わってしまうのですが、さらにおもしろいのは、それが「元々そこにある現実」の「発見」につながったり、現実での行動の変化にもつながるということです。近所のポケストップや Ingress のポータルになっているものの存在に、今まで気づいていなかった・意識してなかったけどゲームをプレイして初めて知った・理解した、というようなことは多々あるでしょう。そして、ちょっとあそこのジムやポータルまで行ってみよう、などと思い立って訪れたことのない場所まで足を伸ばす人も多いでしょう。新たな意味が、現実での行動の新たな理由も与えているのです。

大袈裟に言うと、こうして AR は (自分にとっての) 世界の見え方を変えることができるのです。こういったことが、AR の秘めたポテンシャルなのです。

AR と科学

ポケモン GO などは架空の (フィクションの) 情報を実世界に重ねていますが、AR として重ねるのは何も架空の情報には限りません。例えばフライパンの温度 (そのままでは見えない) を目に見える数字で見せてくれるような AR もあります。現実世界の情報だけでも、世界は拡張され、見え方を変えることができるのです。

そして、東京大学の稲見教授はこう述べています:

“知識って身に付けると世界の感動が増強される究極のAR”

— 稲見昌彦 Masahiko Inami (@drinami) November 6, 2010

そうなのです。
世界の見え方は「知識」によっても変わるのです。

“ノン・デザイナーズ・デザインブック”という本に出てくる挿話にこんなのがあります。著者が子供のころ、植物図鑑を買ってもらって、その中のとある木を気に入って、その見たことがない木はどこに行けば実際に見られるだろう、と考えます。ところが、その木は、近所のあちこちにあったのです。それまでは、名前など、その木に関する知識がなかったので、目に入っても意識していなかっただけなのです。それが、知識を得たことで、その木が意識に登り、はっきりと認識するようになったのです。まさに「世界の見え方が変わった」のです。

知識の種類にもいろいろありますが、世界の見え方を変える知識の最たるものの一つは、科学により得られる知識でしょう。ミクロな世界から宇宙まで、日常的なところから一生直接触れることはできないところまで、科学により得られた知識がないと見えなかったもの・まだ見えていないものはたくさんあります。科学は最強のARコンテンツ作成ツールと言えるかもしれません。

そして、技術

ポケモン GO などを実現するにはいろいろな技術が必要なわけで、すなわち技術も世界の見え方を変える力は持っていると言えます。自分の扱ってるような技術でも、それを使う人達に、少しでも良い方向に世界の見方を変えられればいいなー、と思うので、それを目指して精進したいと思います。