技術研究所の(あ)です。
学術研究というのは多岐に渡りますが、さまざまな分野で学術団体、いわゆる「学会」というものが存在します。各分野に一つずつとは限らず、重なる部分も多いけれどカバーする領域の違うものや、そもそもカバー範囲の広いもの、狭いものなどいろいろあります。たとえば計算機関連だと、情報処理学会、電気情報通信学会、日本ソフトウェア科学会などの学会があります。
各学会は、たいてい、定期的 (月刊、隔月刊、季刊) に「学会誌」というものを発行しています。お知らせなどの会報的な内容以外に、それぞれの分野でのホットなトピックの解説記事やチュートリアル、研究会や国際会議などのレポート、関連図書の書評、軽めの読み物なども載っていたりします。論文誌と一緒になっていて、論文が何本か載っている場合もあります。
学会が発行する雑誌というと堅苦しいものや研究者向けのものを想像する人もいらっしゃるかもしれません。しかし、その分野に関連する仕事に携わっている人であれば役に立ったり楽しめたりする記事もたくさんあります。
今回はそんな学会誌の記事からいくつかおもしろいものを紹介したいと思います。
情報処理学会の月刊の学会誌、「情報処理」の巻頭を飾る見開き二ページのコラムは毎回いろいろな人が執筆しています。計算機関連の研究者が書いていることが多いのですが、それ以外の意外な人たちも登場します。
たとえば…、数学者の秋山仁さん、作家の結城浩さん、円城塔さん、漫画家のゆうきまさみさん、すがやみつるさん、NHK Eテレの「つくってあそぼ」の「わくわくさん」こと久保田雅人さん…。かなり多彩な顔ぶれで、みなさんとても (どこかで情報処理関連につながる) 興味深いことを書かれています。女優の由美かおるさんが書かれている回もあるのですが、ごく一般的な話かと思いきや最後で学術的な話につながる展開がとても印象的でした。
ちなみにこの巻頭コラムは、ウェブで無料で読むことができますので、ご興味のある方はぜひご覧になってみてください。
人工知能学会の隔月刊の学会誌が「人工知能」です。SFショート・ショートが載っていたりするところもおもしろいのですが、この「人工知能」2016/9月号と前述の「情報処理」2016/10月号で、人工知能に関する共同企画の特集が行われるという試みがなされました。
単に同じトピックの特集記事、というだけでなく、何人かの著者が、それぞれあるトピックに関して別々の側面から書いた二つの記事を、一つは「人工知能」に、もう一つは「情報処理」に掲載する、ということも行われています。それぞれの著者ごとに工夫して二つの記事を書いているので、較べて読むととてもおもしろく、深い理解へと繋がります。
較べて読むとそれぞれの雑誌の原稿のレイアウトの違いなども目につきますので、そういったことも含めて味わうのもまた乙です。ちなみに、それぞれの表紙に、もう一方の表紙が取り込まれており、合わせ鏡状態で (解像度の許す限り) どこまでも…な状態になっているところもちょっとしたポイントです。
ヒューマンインタフェース学会は季刊で学会誌を発行しています。この雑誌上で数年に渡り連載されている「ちょっと一息」の記事が「BADUI診療所」です。BADUI とは、使いにくい・判りにくいインタフェースのこと。弊ブログだと「残念ユーザビリティ」の記事で取り上げられているようなもののことです。
「BADUI診療所」は、そんな駄目なインタフェースがぞろぞろと患者としてやってき「症状」を説明し、それに対して Dr. N (ユーザインタフェースの研究者で BADUI蒐集家) が原因と治療 (修正) 方法を説明する、という体裁の記事です。数年に渡り連載されるくらい BADUI のネタは尽きない、というのは残念といえば残念ですが^^;、多くの事例から楽しく「よいユーザインタフェースとは?」が学べるものとなっています。
手近にないので未読なのですが、日本機械学会誌の 2016/10月号の特集が「折り紙の数理的・バイオミメテックス的展開と産業への応用」というもので、個人的にはとても興味があります。
他にも、読んでみたいと思う記事や特集はいろいろとあります。
学会誌は基本的にそれぞれの学会の会員向けに発行されるものですが、個別に購入することができるものもあります。お勤めの会社が法人会員などになっていれば、会社にあるかもしれません。あるいは周囲の誰かが会員になっているかもしれません。
見かけたら、ぜひ手にとってぱらぱらめくって見てください。