はじめまして技術研究所特派員のA.Mです。
10年来ネットワーク畑でやってきた技術者ですので、今回もネットワークテクノロジーについてお話させていただきたいと思います。

 

この数年来、モノのインターネットIoTが世間から注目を集めています。
概念自体はずいぶん古くからあったものですが、ビッグデータによるデータ集積、AIによるデータ分析といった手法が確立されたことで、一気に注目が集まり、特に製造業では積極的に事業投入されていることはご存知の方も多いと思います。

IoTの活用は全世界的に加速していく方向で、総務省の調査によると2020年には日本だけで約15億個のIoTデバイスがインターネットに接続する見込みとのことです。
しかし、ネットワークエンジニアから見た場合、IoTが発展していくには大きな壁があると考えていました。
工場や店舗といった屋内のデバイスであれば、現在のネットワーク環境でインターネットに接続可能ですが、屋外にあるデバイスをインターネットに接続しようとすると、電源の確保や通信費の面で一気にハードルが跳ね上がります。

電源面についてですが、皆さんが自宅や会社で使っている無線アクセスポイントを屋外に設置すると考えるとその難しさがお解りいただけると思います。

まず、屋外にはほとんどコンセントなどありません。仮にコンセントがあったとしてもその取り回しが相当に難しくなります。
例えば、公道を横切って電源ケーブルを敷設することは作業的な面からも社会影響的な面から事実上不可能です。
かといって、電源ケーブルを地中に通すため、道路工事を実施することも上述の公道を横切ってケーブルを敷設することに比べれば、可能性はあるとはいえ極めて難易度が高いミッションと言っていいでしょう。

一番手っ取り早い方法は、電線から直接電源をとることですが、これまたそれ専用の工事が必要であり、民間の事業者が勝手に電柱、電線に工事を実施したり、機器を電柱に取り付けることはできません。
行政に対して様々な申請をクリアした上で、私設柱を作る等、かなりの労力をかければ絶対にできないという訳ではないですが、納期やコスト等を考えた場合、これまた現実的ではないと判断せざるを得ません。

となると、電池で機器を動かすしかないのかもしれませんが、いつ通信を受信するか分からないネットワーク中継機やゲートウェイ機器は常に稼動している必要があります。
あっという間に電池を消耗し、頻繁に電池を交換する必要が生じますね。

さて、ここまで読んで、無線WI-FI式ではなく、セルラー式(3GやLTEなどの携帯データ通信)でやれば中継機やゲートウェイ機器は不要になる、デバイスがキャリア側の基地局と通信できれば環境が確立するのではないかと考えられた人もいるのではないでしょうか。
その考えは、ある程度真実をついています。
セルラー型の通信デバイスも、もちろん電源は必要としますが、中継機やネットワーク機器ほどの電源は必要としません。
通信を飛ばすときだけアクティブにして、それ以外の時はスリープ状態にしておけば、電池である程度の期間の運用も可能だと思います。

しかし、セルラー型の通信を使用するとなると、今度は他の問題が浮上してきます。
その問題とは通信コストです。
簡単に試算してみましょう。
月額が500円くらいの安価なセルラー型データ通信を屋外IoTデバイスの通信に採用したと仮定します。
この事業で扱うデバイスが10,000デバイスあった場合の通信ランニングコストは次のようになります。

500(円)×10000(デバイス)×12(月)=60,000,000(円)

よほどの効果が見込めないと、導入がためらわれるレベルです。
そもそもIoTの導入目的の1つは様々なモノからデータを収集し、それを分析し現在の業務効率について検討し、より効率的になるよう業務変革を行うことにあるので、コスト面だけとはいえ効率が悪化するようであれば本末転倒です。
結果として、少数のデバイスで実証実験まではしてみて、効果は確認したものの、いざ実業務に導入するか否かを考え、通信費面の問題から、現時点での屋外IoTデバイスの導入を諦める、先延ばしにするという状況が昨年あたりに散見されました。

前置きが長くなりましたが、既存のネットワーク技術をベースにした場合、屋外デバイスのIoT促進は非常に困難であるということがご理解いただけたと思います。

この状況を打破する通信技術の開発が急務と考えていたところ、昨年あたりから登場してきたのが、LPWA(Low Power Wide Area)通信です。
文字通り、LowPower(低電力)かつWideArea(広域)通信が可能な新世代の通信であり、
しかも低価格(1回線あたり年額100円台~数100円)での提供が可能となります。

IoTデバイスのうち大容量データ(動画、画像、音声データ)を扱うデバイスは全体の10%、残りの90%のIoTデバイスは小容量のデータ通信しか必要としない、更に多くの発信回数を必要としないという分析から、通信速度を下げ、さらには1日あたりの通信回数に制限をかけ、通信コストを大幅に削減し、低価格を実現しています。

同時に1回あたりの通信時間を短くし、通信回数を制限することで、数年間~10年間ほど電池も交換不要という低電力化も実現しました。

LPWAにはいくつか規格があり、それぞれに特徴がありますが、いずれも通信仕様の基本は上記の考え方をに則したものです。

項目 SIGFOX LoRaWAN NB-IoT
伝送距離 30km 11km 15km
免許 不要 不要 許可制
伝送速度 100bps 最大10kbps 最大100kbps
推進団体 SIGFOX+各国事業者 オープン LTE提供事業者
商業化 2017年2月~ 2017年中頃予定 2017年中
特徴 基本上り通信のみ 双方向通信可能 双方向通信可能

※LPWA通信の仕様の簡単な比較表です。

LPWA通信の1つ、SIGFOXの日本での事業者となった京セラコミュにケーションシステムがこの2月から商用展開をスタートしました。
次世代のIoT通信について調査を続けていた私は、その性能、実力が知りたいと思い、テスト用の通信端末を借用し、品質テストを実施することにしました。

テスト用通信端末単体でも、通信テストだけであれば可能なのですが、それでは面白くないと思ったので、技術研究所の I.Kさんに、スマホで取得したGPS情報を10秒おきに Raspberry Pi から発信するアプリケーションを作成していただき、都内各所で条件を変えて通信品質のテストに取り組みました。

その結果、非常に興味深いテスト結果が出ました
かなり長くなってしまいましたので、通信テストの顛末や結果についてはまた後ほどご報告させていただきたいと思います。
(後編に続きます)