はじめまして。技術研究所特派員の I.M です。

 

私が所属しているクレスコ・イー・ソリューション株式会社の事業の中核であるSAPという企業のプラットフォームビジネスについて思うところを書かせていただきます。

プラットフォームビジネスの起源

プラットフォームビジネスとは、「場」の提供と言えます。
皆さんに身近なプラットフォームビジネスと言えばアップルのiTunes StoreやApp Store、GoogleのGooglePlay、Amazon MarketPlace、最近ではUber、Airbnbなどが話題です。

割と新しいビジネスモデルのように思われがちですが、仕組みの起源を遡ると中世ヨーロッパの「シャンパーニュの大市(おおいち)/Les grandes Foires de Champagne」であるとすることができるそうです。
中世ヨーロッパは暗黒時代と呼ばれるほど危険が多かったのですが、 シャンパーニュ地方の領主(シャンパーニュ伯)は、市(いち)に出店する商人や客に対して盗賊などからの保護という安全、不適切な参加者の排除という安心を提供するだけでなく、借款(ローン)や公正証書、銀行といった仕組みを作り上げて人を呼び込み、特定の集団に特権を与えたりせず契約履行のための裁判所を設け、公平性を重視しました。
結果、市の参加者は増加し、リピーターも増え、市の規模は拡大しました。
シャンパーニュ伯はこのような取組みを継続・強化し、見返りとして市での取引1件ごとにわずかな対価を徴収し、莫大な富を築いたとのことです。

現代のプラットフォームビジネス

iTunesでは音楽や映画、AppStoreなどでは便利なアプリ、Amazonでは利便性の高さやあらゆる商品を揃え、一般ユーザー同士を繋ぐ配車プラットフォームとしてUberが、民泊プラットフォームとしてAirbnbがユーザーを集めています。
革新的なサービスを提供し、コンテンツ提供者と購入者を集めるプラットフォームビジネスの他に、このようなインターネットサービス、ビジネスシステムの基盤となる機能や開発ツールなど、いわゆるPaaS(Platform as a Service)をサービス事業者、企業向けに提供するプラットフォームビジネスもあります。こちらも最近は白熱してきていてAmazon、Google、IBM、Microsoft、Oracle(ABC順)など超大手IT企業がひしめいています。そこにSAPという企業が名を連ねているのをご存知でしょうか。

SAPとは

SAPはIBMを辞めた2人の技術者が起業したドイツ本社の会社で、ドイツ最大の企業と言っても差し支えありません。 近年では、2014年サッカーW杯のドイツの優勝をHANAというインメモリデータベースを使った分析技術で下支えしたことが話題になりました。 SAPという会社を大きくしたのはERP(Enterprise Resource Planning)という企業の資源を有効に活用するためのシステムです。 製品の詳細は省きますが、SAPのERPパッケージを導入している企業は世界190か国30万社以上で、経済紙フォーブズが発表するフォーブズ・グローバル2000にランクインされる企業の90%近くがSAPの顧客だそうです。
このSAPがSAP Cloud PlatformというPaaSで名だたるIT企業と対抗しようとしています。

SAP Cloud Platform

SAP Cloud Platformは元々SAPが提供する企業向けアプリケーションのクラウドシフト先として始まりましたが、他社のPaaSと同様のWebアプリケーション開発・実行基盤に加え、オンプレミスのシステムとの接続手段やインテグレーションサービス、CMISに準拠したドキュメントリポジトリ、他システムのアカウント認証を利用できるサービス、OAuth 2.0、IoTコアサービス、Webアプリケーションのフロントに利用できるHTML5アプリケーションライブラリやそのUIデザインツール、モバイルアプリ・デバイス管理サービスなど企業利用でおよそ必要と思われるWebサービスが既に作り込まれ提供されています。さらに買収などで既に有用なSaaSをラインナップし、それとの連携サービスも提供されています。
もちろんセキュリティもサポートされていますのでSAP Cloud Platformで新規にWebサービスを開始する際には他社のPaaSと同様に気軽に始められるだけでなく、高い安全性を担保した上で自社の既存リソースと連携させることが容易になっている点が他と差別できる点でしょう。さらにドイツ代表のW杯優勝に貢献したHANAというインメモリデータベースも(利用料は高額ですが)気軽に使えますし、先日IoT事業に20億ユーロ投資するという発表もあり、さらなる機能の充実が期待できます。

SAPのプラットフォームビジネス

スタートアップビジネスなどで利用されているイメージが強いPaaSですが、スタートアップビジネスはもはやスタートアップ企業だけに限ったことではありません。パナソニック・スピンアップ・ファンド、ソニーのSeed Acceleration Program、TOYOTA NEXTなど日本でも大企業が社内外にスタートアップビジネスを求め、成果を出し始めています。SAPの顧客は30万社以上で、優良/大企業も沢山います。それらの企業がスタートアップビジネスに着手する際、選択するPaaSは何でしょうか。
SAPの顧客である優良/大企業は、SAPのプラットフォームビジネスに既に参加していたと私は考えています。企業の資源を有効活用するためのアプリケーションから始まり、機能拡張を続けてSAPの企業向けブランドは揺るぎないものになっています。HANAというデータベースもSAP Cloud Platformも、SAPの提供するビジネスプラットフォームの環境整備のうちのひとつに過ぎず、優良/大企業のスタートアップビジネスのプラットフォームとして役割を果たしていく、それがSAPのプラットフォームビジネスと言えるのではないでしょうか。

私が所属しているクレスコ・イー・ソリューションはSAPパートナーとして企業向けアプリケーションのコンサルティングを事業の中核にしています。会社の成長のためにはSAPのビジネスプラットフォームをもっと理解し、SAPの顧客である企業のスタートアップを含むビジネス全般でのSAPのビジネスプラットフォームの活用をお手伝いできるようにしていきたいと考えています。