8月31日と9月1日に開催されたプロジェクトマネジメント学会(PM学会)の全国大会である秋季大会で発表してきました。
このプロジェクトマネジメント学会には、クレスコは法人会員として2016年より参加していますが、前回の春季大会に続き2回連続での発表になります。
今回は、弊社社員4名による『アジャイル開発プロジェクトにおける新人の成長事例』の発表についてご紹介します。
発表内容は、アジャイル開発プロジェクトでの新人育成の事例紹介になります。
変化の激しいビジネス環境に適した開発手法としてアジャイル開発プロジェクトが注目されています。しかしアジャイル開発プロジェクトでは、その卓越性がある故に誰もが参加できるというものではありません。今回の事例は、高度なスキルが前提であるアジャイル開発プロジェクトに参加した入社一年目の新人が職場経験まったくのゼロの状態から、どのようなチームの支えがあって、いかにスキル習得としたかを詳細に確認しています。
ここから、あるべき学習過程の一例を提示するものとしています。
分析フレームワークとしては、新人とその状況に埋め込まれた学習を分析するものとして正統的周辺参加を用い質的に分析したものです。
今回の研究発表のポイントは2つあります。
- アジャイル開発プロジェクトといった特別に優れた人をチームに参加することが奨励されているものに、あえて新人を参加させるという意外性
- タックマンのチーム成長モデルでは、チームの成立期にあたるような状態でもスクラムマスターが、コマンド&コントロールではなく、サーバントリーダーシップを発揮させたことが効果的であったという意外性の発見にあります。すなわち、指示するのではなく、支持したことによる効果です。
今回の研究にあたっては、アジャイルの特徴や学習の考え方についての先行研究の調査、新人の参加モデルとして、Lave and Wenger(1991)の正統的周辺参加を手かがかりに分析したものです。
発表後はとても多くの質問があり、次のような質疑応答がありました。
Q. このプロジェクトがウォーターフォールだったら、変わったと思いますか。
A. ウォーターフォールの場合、分業体制の中で、コーダーやテスターという形で関わることになると思います。アジャイルではお客様要件の確認から開発につなげるため、全体に関わることができることが違いです。そのため、全体の理解にはアジャイルは良かったと思います。
Q. このケースはやる気のある新人だったからできたとはいえませんか。
A. 確かに新人のやる気は大切ですが、それを支持するチームの環境が重要であると考えています。
Q. 新人の成長によって生産性の向上はどうでしたか。
A. アジャイルの場合、繰り返し開発になるのでプログラムあたりの生産性という観点では低くなりますが、新人のスキル向上としては、他のディベロッパーと遜色ないレベルになったという点は明らかでした。
Q. もし新人だけのアジャイルプロジェクトをするといった場合、可能だと思いますか?
A. 可能性はあると思います。ただ、今回のプロジェクトはもともと習熟しているメンバーの中に、新人が入ったケースなので、支持することで対応しましたが、新人ばかりのプロジェクトの場合、コマンド&コントロールは必要になるとは思います。
短い質問時間の間にこれだけの質問があるのはめずらしく、それだけ関心の高さを示していたと思います。
現在のお客様の仕事やプロジェクトに対して、「これ、どうしてなんだろう」「少し違う経験しているのではないか」と問題意識を持つことから、研究は始まると思います。そうした身近なことでも、他の人にとっては有用な情報になるかもしれません。また機会をつくり、より多くの経験や研究を共有したいと思います。