技術研究所の (あ) です。
もう時間が空いてしまいましたが、先日(3/14)、情報処理学会第80回全国大会の一般発表セッションの一つで座長をやってきました。
学会聴講とか発表とかをやったことのない人には、この「座長」というのが何なのか、いまいちピンとこないかと思います。
ということで今回はその辺りを軽く書いてみたいと思います。
スライドを使ったプレゼンテーション (口頭発表) が行われる学会では、テーマが近いものなど数件ずつまとめて「セッション」としてプログラムが組まれます。
このセッションの司会進行・とりまとめを行うのが「セッションの座長」になります。口頭発表以外にも、ポスターセッションやデモセッションの座長というような役割もあります。セッションのとりまとめという点は同じですが、今回はそちらの詳細は置いておきます。
司会進行と言ってももちろん、専門の司会の人がやるわけではなく、それぞれのセッションのテーマと同じもしくは近い分野の研究者が担当します。
基本的な役割は、各発表開始時のタイトルと発表者の紹介、発表後の質疑応答の取り仕切り、タイムキープです。タイムキープに関しては、別途時計を見ておく補助の人がつくこともありますが、その場合も、時間が超過したりした場合のやりくりや発表者などへの促し方は座長に任されます。分野や学会や発表の種類などによってさまざまな文化があると思いますが、この三つはおよそ共通しているかと思います。
以下、私が知っている範囲の情報系の学会での様子を元に書きます。
座長がどう選ばれ、決まるか? は一旦置いておいて、座長を頼まれるときには、そのセッションのテーマ、発表タイトル&発表者のリストは(多くの場合) 判っています。
引き受けると、事前にその発表の予稿が送られてくる場合とそうでない場合があります (発表要旨だけ判る場合もあります)。送られてくる場合は、それらに事前に目を通して予習します (どの程度やるかは人それぞれだと思いますが…)。
何故、予習が要るかというと、各発表の質疑応答で聴衆からの質問者がいないとき、誰か出てくるまでのつなぎの、あるいは呼び水とするための質問をするのは座長の役目とみなされているからです。すなわち、そういう場合に備えて、あらかじめいくつか質問ポイントを用意しておくと、安心なのです (それらのポイントが全て発表内で喋られてしまって無に帰すこともあります(笑))。
また一方で、学生など不慣れな発表者が質問者の意図を掴みそこねて戸惑ったりしているときには、座長が質問内容を言い換えたり整理したり補足したりして補助することもあります。適切な助け舟を出すためにも、事前の予習は役に立ちます。
最近だと発表の横でチャットが流れていたり、Twitter 実況が行われていたりすることもよくあるので、そこから質問や疑問点、コメントを拾って、座長が代わりに口頭で伝える、なんていう場面もあったりします。基調講演のように聴衆が比較的多い場合はメモ用紙などで質問を集めて、なんていうのもありますね。
そうしたことを通じ「質疑応答の時間を、発表者・聴衆双方にとって有益な議論の場になるように努力する」のが座長の最も重要な役目なのです。
さて、こうしてさり気なく重要な役目を担っている座長ですが、決める (というか探す) のはだいたい学会運営のうち、プログラムやセッション割を決める人 (たち) です。
そうした人たち (もちろん研究者です) に、そのテーマの研究の話にふさわしい or 対応できると認識されているのが選定基準、といったところでしょうか。少人数の研究会などで当日その場で (開会直前に) 頼まれたこともありますが、事前に決める場合には、日程の都合が合わないとどうしようもないので「その学会に参加しそうな人」を選ぶというのも重要です。
ちなみに、先日の情報処理学会の全国大会では私は「インタフェース」というカテゴリの中の「インタフェース (2)」という名称のセッションの座長を担当したのですが、そのざっくりしたセッション名から想像できるとおり、発表の中身のバラエティはなかなか多様でした。バラエティに富んでいても対応できるよね、とセッション割の担当者に認識されているのだと思います^^;。
全国大会のようにセッション数が多いと、座長の候補者を決めるだけでも大変です。以前、情報処理学会の大会のインタフェースのカテゴリーのセッション割&座長候補 (第二候補まで)
選出をやったことがあるのですが、全部で30近いセッション数だったので、泣きそうになりながら選んでました。そんな経験もあるので、自分が座長を頼まれた場合は (日程の都合が合わない場合はしょうがないのですが) とても断りづらいです^^;。
学会を聴講したことがある方でも、座長の存在や役割というのはあまり気にしたことがないかもしれませんが、やるのも選ぶのも独特の苦労があります。こうしたことは、教わる機会はまず存在しませんし、紹介されることも少ないかと思います。
何故そんな苦労をするのか? というと昔の記事 でも引用したとおり、「研究とはコミュニティ、すなわち、同じ分野で研究を行う人たちとのつながりの中で行うもの」だからでしょう。コミュニティのための活動の一つが、こうした役割なのだと思います。
縁のない人にはまったく無縁な話かと思いますが、そんな世界もあるのか、とちょっとした知識として知っていただければ幸いです。