発達心理学で考える高齢者のUX

こんにちは。UXデザインセンター金井です。

2018年、ついに60代の5割、70代の3割がスマホを所持する時代となりました。

60代シニアのスマホ所有率が5割超に、初めてガラケーと逆転、70代も3割超 (トラベルボイス)

最近手がけたのUI設計案件でも、家族全員で利用する工業製品や、株取引などの金融系サイトなど、ターゲットに高齢者を含む事が多くなってきました。

さらに国をあげてAIやロボットなどを活用し、高齢化社会における問題を解決していこう、という動きも見られます。

未来投資戦略2018 ─ 「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革 ─ (首相官邸)
第2 具体的施策 2.次世代ヘルスケア・システムの構築

これからは高齢者の特徴をよく把握する必要がありそうです。
そこで今回は発達心理学という視点から、高齢者のUXを考えてみたいと思います。

発達心理学とは?生涯発達という考え方

心理学の一種に「発達心理学」という学問があります。

これまでは主に子どもの発達研究を中心に発展してきたのですが、昨今の少子高齢化の影響で、成人期・高齢期までその研究対象が拡大され、今、注目されはじめています。

発達心理学では、「生涯発達」という考え方があり、人間は生涯を通して発達し変容していく、としています。
発達心理学における高齢期の特徴とは、どんなものでしょうか。

得意なこと、苦手なこと

まずは、高齢期に起こる記憶力の変化について考えます。

確かに加齢による能力の衰えはありますが、全ての記憶能力が低下するという訳ではないようです。
こちらの本によると、エピソード記憶とワーキングメモリは確かに低下するのですが、意味記憶や手続き記憶は、加齢の影響はほとんど受けない、とあります。

また、知能に関しても同様で、苦手な能力があるのは確かですが、80代までほとんど衰えない能力も存在します。

次に身体的な変化はどうでしょう。

誰でも例外なく、年齢を重ねるごとに身体的な能力は衰えていきます。
特に視覚の衰えは周りにも解りやすく、街中でも小さな文字を見えづらそうにしている方を見かけたりしますね。

また、老眼や視力の低下だけでなく、明暗への順応も遅くなります。

暗順応と読みとり可能な文字の黒色濃度計測結果 (一般社団法人 人間生活工学研究センター)

味覚の衰えから塩分過多になったり、嗅覚の衰えからガス漏れに気づくのが遅くなったり、皮膚感覚の衰えからお風呂でやけどをしてしまったり。。

五感の衰えは、日常生活で多々実感するのではないでしょうか。

このような老化現象に直面することで、高齢者の気持ちは暗くなってしまうのでは、と思われがちですが、高齢期にはポジティブな情動が増え、逆にネガティブな情緒があまり報告されない、といった調査結果もあるようです。

The effect of age on positive and negative affect: a developmental perspective on happiness. (PubMed) ※英語サイト

もちろん個人差はあると思いますが、特に怒りの感情は顕著に減少するのだとか。
高齢者は自らの感情のコントロールが上手で、周りが考えるよりポジティブな一面もあるのですね。

体験を考える際に留意すべきこと

以上のような特徴をふまえ、高齢者のUXを考えたとき、どのような留意点があるでしょうか。

まず、「五感の衰えを補助する」という視点はとても重要になると思います。

・文字のサイズは適正か、自由にサイズを変更できるか、コントラストは適正か
・音声や文字、点滅などのUIで、危険に注意を向けることはできないか
・センサーなど、デバイス側で見守りに代わるような機能を付与できないか

障がい者の方へむけた自立支援も、ヒントになるかもしれません。

障がい者支援の最前線――アメリカで見た最先端テクノロジーと社会の仕組みに思うこと (GetNavi web)

記憶能力の衰えをフォローすることも考えたいですね。

・文章の量は多すぎないか
・一時的にでも何かを記憶させるフローになっていないか
・シンプルなステップ数・操作感を考えられているか
・慣れている操作で完結出来るか

また、結晶性知能を用いた体験は提供できないでしょうか。

・自分の趣味や仕事、知識を世界中の人と共有するとしたら?
・下の世代の先生役として意見するには?

さらにポジティブな内面を活かし、新しいことを習得するのはどうでしょうか。
確かに経験のない事は苦手という傾向はありますが、高齢になってから偉業をなしとげた話はたくさんあります!

・81歳でiPhoneアプリを開発 (BUSINESS INSIDER JAPAN)
・70歳でブログを始める (日本老友新聞)
・89歳でマラソンをはじめ、101歳でフルマラソン完走 (あんな話 こんな話 今週の朝礼)

苦手をサポートすることで、新しいことへの挑戦や生きがいを発見できるようなUXを提供できたら、こんなに素晴らしいことはありません。

より良い人間関係が生きがいに

加えて、高齢の方にとって生きがいとなるのが、身近な人達とのコミュニケーションです。

内閣府の調査では、あなたが生きがい(生きていることの喜びや楽しみを実感すること)を感じるのはどのような時ですか。
との問いに「子供や孫など家族との団らんの時」と答える方が一番多かったようです。

平成27年度 第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果 (内閣府)
(8) 不安・関心・満足度

しかし、適度なおつきあいを求める一方、身体的な能力の衰えを体感する事でその気持ちを失っていく、という悪循環も考えられます。例えば耳が悪くなって聞き取りづらいので会話を避ける、などです。

ICTを利用して、「外に出たい」という気持ちや「人と関わりたい」という気持ちを想起することは出来ないでしょうか。

また、老齢期の非常時を考えるとき、「人と繋がる・頼る」方法を持つことは非常に重要です。
相互にコミュニケーションを簡単に取れるデバイス、UIとはどんなものでしょうか。

技術を利用して、家族やお友達とのコミュニケーションをより良くする、という体験を提供することができたら素敵ですね。
一方でウイルス・アカウントの乗っ取り・なりすまし・詐欺・不当請求などから防衛策も、より手厚く提供したい機能といえます。

高齢者が負の体験をせず、安心して利用するためには、どんな視点が必要でしょうか。

高齢者の幸福感から学ぶ

「ウェルビーイングの逆説」という言葉があるそうです。

これは加齢のパラドクスなどとも言われ、「歳とともに能力は低下するにも関わらず、高齢者の幸福感は向上する」
という現象を指します。

超高齢期の心理的特徴 -幸福感に関する知見- (健康長寿ネット)

この説明としてよく例にあげられる「SOCモデル」や「社会情動的選択性理論」によると、高齢期に入り能力の喪失が起こっても、

・ゴールを変える(目標の選択)
・時間や体力の再配分(資源の最適化)
・補助/サポート(補償)
・優先順位をつけ行動する
・よりポジティブな情報を好むようになる

上記のような発想の転換が起こり、幸福感が下がらないのでは、と説明しています。

まさにこれまでの人生で培ってきた「経験・知見・理解力」で高齢者自らが問題を解決している、と言えるのはないでしょうか。
この知見をお借りしない手はありません。

これから日本が迎える超高齢化社会、確かに問題も山積かと思います。
しかし今回、発達心理学という観点で高齢期の特徴を調べていく中、UX設計や技術の力で解決できることは色々あると感じました。

まさに今、予防医学・介護ロボットなど、先端技術の力でこれから目覚ましく発展していく分野でもあります。
技術の力と高齢者の知見で「幸せなお年寄りライフ」を一緒に作っていくことができたら、将来がもっと楽しみになりそうです。

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