ヴァル研究所さんは「カンバン」や「振り返り」といったアジャイル開発のプラクティスを、開発部門だけでなくバックオフィス部門でも採用し、全社的に可視化・情報共有に取り組まれております。
オフィス見学ツアーは、これらの取り組みを実践されている現場の方にご説明いただき、質問できるという人気のツアーで、9か月待ちして参加させていただきました!
内容については、こちらにある通り、各社がレポートされておりますので、割愛…といいたいところですが、日々進化しているプロセスだと感じたので、2019年2月末時点では、ということでレポートさせていただきたいと思います。
お約束の時間に訪問すると、エントランスに置いてある電光掲示板に
「株式会社クレスコ様 ヴァル研究所の会社見学ツアーへようこそ」
の文字が!!!
ご案内いただいたのは「KAIZEN JOURNEY」の著者の新井さん。愛読者の二人はサインもらって、ニンマリです。
駅すぱあとのサービスの核は「時刻表データ」ということで、歴代の時刻表が置かれている部屋にご案内いただき、
記念撮影してツアー開始です。
総務部門、監査部門、マーケティング部門、開発部門(通勤費チーム、時刻表データチーム、駅すぱあとAPIチーム)の作業場所にご案内いただき、実際に運用されているカンバンやファシリティを見学させていただきました。
給湯室のこんな注意喚起の貼り紙も、誰に言われるでもなく、いつの間にか貼られているそうです。会社を良くしていこうという気概を感じます。
ここからは生々しい実態をお見せいただいたこともあり、写真少なめの拙い文章でお伝えしていきます。
1週間の作業サイクルを回し、カンバンを使って「本日やること/おわったこと」「1週間のうちにやること」を張り出し、タスクの見える化が行われておりました。
スクラムでいう「スプリントバックログ」と「デイリースクラム」のリアルタイム議事録といったところでしょうか。
作業時間=ポイントで運用できているのも総務部門ならではだなぁ、と勝手に納得してみたり。
カンバンの下にあるのは個人がもやもやすることを書き出す「もやもやボード」です。
その横には向こう2か月のやることがざっくりと書かれています。
さらにその隣には、半年分のやることの前後関係が整理されています。
その他、
ニコニコカレンダーが運用されておりましたが、面白いなと思ったのは、朝・夕の2回書くこと。一日のうちでテンションが変わったことがすぐに分かります。
こちらの部署でもカンバンを運用しておりましたが、総務部門との違いはベロシティを取っておらず、担当者を見える化するに留めているそうです。
また、バリューストリームマップを作成し、作業の流れと作業負荷を可視化しており、無駄を削っていったら、42日掛かっていた作業が17日に短縮できたそうです。
監査部門では研修設計もされているそうで、年次別、カテゴリ別の研修メニュー一覧(マトリックス)が壁に貼られていました。
このあたりから、感覚がマヒしてきます。なぜなら、当然のようにカンバンを運用しており、これが普通だよねという感覚になってしまうぐらい自然なんですよね。
「俺はいったい何してるんだ」とか、自己嫌悪に陥りながら説明を聞いていると、これまでのカンバンには無かった、手書きのぐちゃぐちゃッとしたマークが並んでいます。
このマーク、1時間残業することに1つ書く必要がある「う〇ち」の絵だそうで、誰かに「う〇ち」が偏っていると、作業負荷の偏りがあるということなので、チームメンバー同士でタスクを巻き取りあい、チームとして残業を減らす。チーム全体の残業時間が一定以下であれば、ご褒美があるというルールで働いているそうです。
その他、忘れっぽいことをメモしておく場所に鶏の絵が描いてあるなど、個人の手帳のようにカンバンを運用されていました。
バックオフィス部門は業務の特色が強いので、独自の運用ルールなのは納得ですが、開発部門は共通のプロセスがあるのかと思ったら、部門ごと、チームごとに全然違いました。
開発メンバーの出入りがあるので、チームのミッションや原則、完了の定義を明文化、掲示し、目線を合わせるということを行っていました。
問題管理はアナログ管理で運営しているそうです。電子化すると、リーダーしか見ないので、リーダー自身が疲れちゃうからだとか。あー、凄い分かる。
スキルの見える化で個人とスキルのマトリックスを作り、貼りだしていましたが、スキルレベルマークの横に↑や↓が付いています。
エンジニアって「出来ること」と「やりたいこと」って必ずしも一致しないんですよね。メンバーのこのあたりの気持ちを汲んでいるところ、素敵ですね。
総勢20名なので、3チーム体制で動いているそうです。チームごとに運営方法は異なり、厳格なスクラムをやっているところもあれば、ゆるくやっているところもあり、カンバンもチーム数分あるそうです。
スクラムオブスクラムのような運営を行っていて、チームごとの振り返りの後で、チームの代表者を選出して、チーム間の振り返りも実践されているそうです。
データ管理は提供元企業ごとに対応が異なるそうで、仕掛作業をたくさん持たないように、特定の工程ではWIP制限を設けているそうです。
WebAPIは利用されてなんぼというところがあるので、開発業務に加え、自分たちで広報活動、開発者とのリレーションづくりまで担当されているそうです。
サービスが停止してしまうと、ビジネスインパクトが大きいことから、各イテレーションの中で1名は問い合わせ・サポート担当を担当し、開発タスクを持たないようにしているそうです。
問い合わせやサポート依頼が無いときは暇しているのかというとそうではなくて、カイゼンタスクを消化するそうです。
フロアのあちこちに大きなモニタとテーブルがあり、声を掛け合ってペア作業、モブ作業ができるようになっていました。
雑談のお供、モブワーク時のお供、緊張する相手とのコミュニケーションのお供で大活躍。たまったお賽銭で新しいお菓子が入荷されるそうです。
Raspberry piで自作した電光掲示板。様々な情報が流れているそうです。
駅すぱあとAPIで障害が発生すると、ダースベイダーから音が出るそうです。
頭でっかちになると、「〇〇してなかったら、アジャイルじゃない。とか、スクラムじゃない。」とか、教えてくださる方もいらっしゃいますが、いいんです。アジャイルじゃなくても、スクラムじゃなくても。それがやりたいわけではないですから。より良くなればいいんです。
業務フローとか、何ちゃらマトリックスと呼ばれるドキュメントって、完成してどっかに保存しておいて、新任者が来たら「これ見といて」なんて塩対応することあったりしませんか?
ドキュメントって、作った本人は理解が深まりますが、誰かに何かを伝えるためのものだと考えると、壁に貼りだして、会話しながらメンテできるっていいなと思ました。
新しい取り組みを入れようとすると、どうしても全体最適を考え、歩みが遅くなったり、誰も望まないものを作ったりしてしまいます。自分にも経験があります。
ヴァル研究所さんの各部門の取り組みで思ったのは、部門運営をオープンにしていれば、良い文化は勝手に広がっていく。ということです。
- 個人が気になることを書き出す場所(もやもやボード)があり、棚卸をするルール(判断基準、投資時間)が決まっている
- 付箋の色に意味を持たせる(自分たちにとっての視認性)
- 価値を届けるまで、付箋を破棄しない
- チーム運営ルールの明文化(チームミッション、原則、朝会司会メニューなど)
など、個別最適からインスパイアされて、派生して広まった文化がたくさんあるように思いました。最たる例が「カンバン」ですね。
お水
ノベルティ
という、物理的なものもうれしいのですが、やはり、参加者に新しい気づきがあるのが素敵ですよね。
私の気づきはこれまでに書いてきましたが、他の参加者が何を得たのか、声を集めてみました。
- う〇ちかんばん便秘が正常!
- スキルマップにベクトルつけるのマネしたい。
- もやもやボード取り入れたい。
- カイゼンわかりみしかない。
- カンバンの使い方の共通点はあるが各部門に特化した工夫とメンバーの主体性が現れていて、会社全体がマイクロサービスみたいだった。
- 各部門の方から流暢で分かりやすい説明と受けた後「え!?説明してたの1年目の方!?」という衝撃を2回ほど受けた。1年目とは思えないほど、チームを理解し答えている姿を見て、可視化する文化が新人の教育にも影響しているのではないかと思った。
- 状況をビジュアルに見せるという「見える化」の思想は共有しつつも、各チームが楽しみながらカスタマイズしているのが印象的。チームの特性に合わせた工夫は非常に参考になる。
- もやもやボードやおやつ神社、電光掲示板など、アイデアが歓迎される文化を感じる。
- 新井さんのお話「この状況まで7年、キャズム超えのタイミングは分からなかった」から、日々の改善の積み重ねを感じた。
- チームのスケジュールやToDoや残業時間が、プロジェクトフォルダのどこかのファイル(わざわざ見に行かなければならない場所)だけではなく、アナログで貼りだされている
- 誰にでも見えるところに可視化されている
- 誰にでもチームの現状や問題点が一目でわかるので、改善活動への参加やアイデア出しが簡単になる
- 全員が自発的に改善活動を行っていく、よりよいチームが作れる
- もやもやボードで、日々消えていくような小さなもやもやもキャッチして改善していける仕組みがあるのが面白いと思いました。
上記にもある通り、ここまでのカイゼン文化になるのに7年掛ったそうですが、少しずつより良くすることの例を見せていただき、良いことには結果は付いてくることの実感が持てました。
今回、このような機会を頂戴しまして、新井様をはじめとした、ヴァル研究所の皆様、本当にありがとうございました。