こんにちは、クレスコの北垣です。

AWS関連ビジネスのコンサルタントやシステムアーキテクト、PJマネージャーとして業種を問わず幅広く活動しております。今回は当社が力を入れているAWS技術者育成の一環として内製で実施した新人研修の取り組みについてご紹介します。

目次

1.内製化4つの狙い
2.基礎固めと成長促進を重視した研修コンセプト
3.研修のゴールと行動指針
4.研修内容の詳細
5.研修成果
6.今後の展望
 

1.内製化4つの狙い

当社の新人研修は、状況やコンテンツに応じて外部委託と内製を使い分けています。今年度はビジネスマナーや基本的な ITスキルは外部委託を行い、約3週間実施する専門技術(AWS 等)は内製で実施しました。内製化の主な狙いは次の4つです。

カリキュラムのカスタマイズ 受講者のスキルレベルに合った内容を設定
研修進行中でもフレキシブルにカリキュラムの変更や追加を行う
講師のスキル&マインドアップ 教えることを通じて講師自身の成長を促進する
育成戦略に沿った取り組み 「成長を楽しむ、高め合う風土」を醸成する
コスト削減 内部リソースを有効活用しコスト削減を図る

2.基礎固めと成長促進を重視した研修コンセプト

AWS技術領域における新人研修は約3週間です。理想としては研修後に現場で即戦力となることですが、ITやクラウドの初学者が3週間で即戦力になるのは現実的ではないため 「基礎を固める」 ことを重視しました。


また、講師は通常業務を兼務しているため、常に受講者に付き添うことはできません。そのため、「受講者自身が積極的に学び、不明点や疑問点を受講者同士で共有し教え合う」 ことが重要です。さらに研修終了後もAWSの学習を続けてほしいという願いから、「長期的な成長を促す環境づくり」 を目指しました。

3.研修のゴール

コンセプトをベースにして研修ゴールを次の通りに定めました。

4点目は少しハードルが高いですが、AWSを学ぶだけではシステムは作れないことやAWS以外も学ぶべきことがあるということを理解してもらうために組み込みました。

 

ゴールとは別に、単に技術を学ぶだけでなく継続的に成長し続けるための土台を築くために、行動指針として次のことを意識してもらいました。

  • 最新技術に興味を持つ
  • 不明点や疑問点、理解したことを共有し教え合う(アウトプット)
  • 同期や先輩社員、講師とコミュニケーションを取る
  • 学習方法や研修の進め方を工夫する

4.研修内容

AWSは日々Updateされていくため、その特性上、独自の研修コンテンツを作成しても長期的な再利用が難しい状況です。そこで当社は、AWSパートナーネットワーク(APN)のメンバーとして、AWS社が提供するトレーニングコンテンツを最大限活用する方針とし独自コンテンツを最小限に抑えました。研修概要は次の通りです。

各コンテンツの内容受講者の声(良かった点や改善点)について、ご紹介させていただきます。

4-1. AWS概要・基礎理解(動画視聴&問題演習)

はじめはAWS初学者向けの概要と基礎理解を進めてもらいました。AWSパートナー向けに提供されているコンテンツを利用しております。

「クラウドとは?」 「なぜAWSを学ぶのか?」 といったクラウドの概念や学ぶ意義を分かりやすく、熱量溢れる講義で受講者のモチベーションを高め、基礎的な知識を体系的に学べるコンテンツです。AWS認定クラウドプラクティショナー試験対策も含まれています。

  • 受講者の声

初学者向けの内容が充実しており好評でしたが、動画を長時間視聴してもらうため、合間にワークを組み込むことや動画サマリを用意する等の工夫が必要でした。来年度以降の改善ポイントです。

4-2.ハンズオントレーニング(動画に沿って作って学ぶ)

AWSの学習においてサービスを実際に利用してみるというのは、理解促進に繋がる非常に重要なトレーニングです。AWS 初心者向けの 「AWS Hands-on for Beginners」 として提供されているコンテンツから抜粋して学んでもらいました。

AWS Hands-on for Beginners

(以下、スケーラブルウェブサイトを構築するサンプル)

研修期間の都合上、上記のハンズオン1~7までを必須で実施してもらい、ハンズオン8以降は任意としています。ハンズオン動画は非常に分かりやすく手順を説明してくれていますが、AWSマネジメントコンソールのUIや各種設定内容がUpdateされていくため、事前に講師の方で一通りハンズオンを実施し、進める上での注意点や設定内容(動画からの変更点)を整理し受講者に展開しておきました。

 

ハンズオン実施は各個人で進めてもらいますが、チームを組んでもらいチームの中で不明点や疑問点、理解したことなどを共有・アウトプットしてもらう形にしました。教え合い、振返りやアウトプットをすることで知識の定着とお互いを高め合うことを意識してもらいました。

  • 受講者の声

ハンズオンを実施すると、あたかもシステムを構築できるようなった錯覚に陥ってしまいます。新人の日々の日報を確認しても 「〇〇の作り方が分かった、理解できた」 といったコメントがありちょっと不安を感じました。そのため、理解したところや理解できていないところを自身で認識してもらう目的でハンズオン内容についてLT(ライトニングトーク)してもらうことにしました。

4-3.アウトプット

ということで研修進行中に追加したコンテンツとなります。「LT(ライトニングトーク)」 と 「学んだ技術でシステム構築」 の2つについて紹介します。(研修を進める中で状況や新人からの相談・提案を受けて、柔軟にカリキュラムを変更・追加できる点は内製化の良いポイントだと感じました。

1)LT(ライトニングトーク)

エンジニアであればアウトプットの重要性を感じている方が多いかと思います。新人にも実感してほしく、ハンズオンのシステム構成について説明するLT&質疑応答 を実施してもらいました。

「ハンズオン3 Network編#1 AWS上にセキュアなプライベートネットワーク空間を作成する」 を
例にすると、以下の構成について各サービスの概要や役割等を説明してもらうイメージです。

質疑応答では以下の様な質問に回答してもらいました。

  • パブリックサブネット と プライベートサブネットの違いは?
  • Internet Gateway と NAT Gatewayの違いは?
  • VPC EndpointやPrivateLinkはなぜ必要?

 

LTに対してあまり乗り気ではなかった受講者ですが、やってみると非常に前向きな感想が多く、
もっとLTする機会を設けてほしかったという嬉しい発言までありました。
 

2)学んだ技術でシステム構築

こちらは新人からの相談と提案から始まった企画です。「学んだことを活かして何かシステムを作ってみたい」 と1つのチームから相談を受けました。こういった相談は講師としてすごく嬉しいことです。せっかくなので、受講者全体向けに提案してもらいました。以下は実際に新人に作ってもらった提案資料の抜粋です。

資料を作ってもらい、受講者全体に向けて提案(発表)してもらいました。このように他者を巻き込む力や、他者のために動ける人材はとても貴重です。その後、チームや個人で開発を進めてもらい、最終的には以下のようなシステムを成果として発表してもらいました。

  • Teamsから生成AIチャット
  • Polly動作確認Webサイト
  • Teamsから英訳チャット
  • 画像から感情分析
  • React利用した静的Webサイト

など

いざ取り組んでみると、サービス同士をどのように連携すれば良いのか、このシステム構成で適切なのか、ハンズオンでやったことを理解していなかったなど、かなり苦労していました。しかし、実践形式でのトレーニングは学ぶことが多く、またチーム開発を実施したことも良い経験になったと思います。

4-4.Special Events

座学やハンズオン、LTだけでなく、新人のモチベーションUPのため、最新技術に興味を持ってもらうため、AWSを大好きになってもらうためのイベントを用意しました。

1)AWS Summit Japan への参加

AWSの面白さを知ってもらう、最新技術に興味を持ってもらうために 運良く研修期間中に開催される 「AWS Summit Japan」 に参加してもらいました。(開催初日6/20(木)のみ参加)

ITのイベントなので堅い雰囲気を想像していたようですが、いざ参加してみると 「新人でも気軽にブースで話を聞いて質問でき楽しく学べた」 、「お祭りみたいだった」、「AWSもっと好きになった」 といった声が多かったです。


AWSを活用した身近なインフラ事例から宇宙規模の事例まであり、また生成AIに関するセッションやブースが非常に多くAWSの面白さと魅力を感じてくれていました。特にAmazon Bedrock を今すぐに使ってみたいという声が多く、モチベーションUPに大きく影響を与えてくれました。
予想以上にAWS好きになってイベントから帰ってきたので、講師陣も驚きでした。

 

そして、イベント参加後はもちろんアウトプットしてもらいました。

  • 印象に残ったこと、刺激を受けたこと
  • 学んだこと、気づき
  • 興味を持った分野やサービス

など
 

2)AWS様 & 2023 Japan AWS Jr. Champions による特別セッション

新人のモチベーション向上 および AWS Jr. Champions を目指してもらうため、2つの特別セッションを企画しました。

  • AWS 前田様「AWS生成AI入門 & AWS Jr. Championsの紹介」 
  • クレスコ 源川「AWSで飛躍する:新人からJr. Championsへ」

当社オフィスにAWS前田様をお招きし、ご講演いただきました。

AWS Summit Japanでの生成AIサービスの魅力を知った新人たちにとって、今回のセッションは興味深い内容の連続だったようです。また、身近な先輩社員からJr. Championになるまでの過程や、なってからの活動内容を聞くことで、Jr. Champion制度を通じたキャリア形成の可能性について大きな関心が寄せられました。

「今すぐBedrockを使いたい」、「Jr. Championになりたい」 という声を聞けたのは非常に嬉しいことです。参加者のモチベーションを極限まで高めていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。

4-5.クラウドプラクティショナーの受験

AWS Jr. Championsの応募クライテリアの1つに 「クラウドプラクティショナーの取得」 条件があります。Jr. Championsを目指してもらいたいため、研修の終盤にこの資格試験を受験してもらいました。合格率は公開されていませんが、新人が2週間ほどの学習期間で受験することを考慮すると合格率は50%程度を想定していました。

しかし、結果は予想を上回り、27名中18名が合格し、合格率は67%となりました。残念ながら不合格だった方々も 「すぐに再挑戦したい」 「次回は必ず合格する」 と強い意志を示していました。

さらに、試験後すぐに SAA(AWS ソリューションアーキテクトアソシエイト)の参考書を購入する人も多く、学習意欲の高さがうかがえました。AWSの面白さ魅力を感じてもらい、自発的な学習を促すという点では、想定していた以上の成果になったと思います。

 

以上が研修のおおまかな内容となります。
※長文となってしまったため、以下の取り組みは省略します

5.研修成果

設定したゴールの達成度を講師の視点でみてみます。

「基礎を固める」、「長期的な成長を促す環境づくり」 の研修コンセプトは期待以上の成果だったと思います。

6.今後の展望

新人研修の内製化には賛否両論あるかもしれませんが、進捗や状況に応じてカリキュラムをカスタマイズできる点、外部委託ではできない取り組みを導入できる点、講師自身の成長という観点では非常に有効だと感じました。今回の経験を活かし、より効果的な研修プログラムを検討し、さらにAWSエンジニアの長期的成長を支援する体制を強化していきたいと思っています。