こんにちは。プロセス統括部開発推進室の青山です。
 

私はこれまで開発現場のアジャイルコーチとして、アジャイル開発の啓蒙・現場への適用、DevOpsソリューションの推進などを進めていましたが、今年度から開発推進室という新設の部門に異動となりました。
 

開発推進室では、現場の生産性向上の仕組みの検討・提供に加えて、管理部門(間接部門)の生産性向上も目指しています。その活動の一環で、今年度から管理部門の「アジャイル組織化」に取り組むことを始めました。
 

今後のブログで、この取り組みについて何回かに分けて皆さんに共有していきたいと思います。
 

なぜアジャイルなのか?

日本の企業は、「大企業病」に陥っているとよく言われます。
「大企業病」とは、現状維持に重きを置き、新規チャレンジを行わない、縦割り組織のため意思決定のスピードが遅く、ルールや習慣に縛られすぎて臨機応変な対応ができない状況に陥っている企業の体質や風土を指します。
 

このような大企業病に対応してDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていくためには、アジャイルの原則・アプローチが有効と言われています。IPAが発行した「DX白書2023(※1)」でも、「DXは、ニーズの不確実性が高く、技術の適用可能性もわからないといった状況下で推進することが求められ、状況に応じて柔軟かつ迅速に対応していくことが必要である。そのため、日本企業にもアジャイルの原則に則ったDXの取組が求められる」(同書 15ページ抜粋)と述べられています。
 

ただ一方でアジャイルの原則とアプローチを組織のガバナンスに取入れているかを尋ねた結果を示す同書 15ページ、図表1-13 「アジャイルの原則とアプローチ」を見ると、日本においてはいずれの部門においても、取入れている割合(「全面的に取り入れている」「一部取り入れている」の合計)は5割未満であり、7割から8割を超える米国とは取組に差があることが分かり、まだまだ日本では取り組みが広がっていないことが分かります。
 

クレスコグループでは、長期ビジョン「CRESCO Group Ambition 2030」において、2030年度末時点で「ありたい姿、"わくわくする未来"」を実現し、連結売上高1,000億円の企業を目指しています。近年の外部環境の変化に対応しながら、1,000億円規模の企業グループへの成長には大きな変革が求められます。そのため、弊社では大企業病を回避したい状況ですが、実際の意思決定や対応速度、そして対応の柔軟さについて鑑みると、課題がある状況であると言えます。

そこで、課題感のある管理部門を中心に、アジャイルの原則・アプローチを取り入れ、アジャイルな働き方と価値提供を実現し、組織全体の効率性や従業員満足度の向上に貢献することを目指します。これが「アジャイル組織化」の狙いとなります。
 

「アジャイル組織化」とは?

「アジャイル組織」は「アジャイル型組織」などと呼ばれたりもしますが、開発現場で活用されていたアジャイル開発手法を組織全体に拡大・適用したものであり、厳密な定義はありません。
 

アジャイル組織化への取り組みとしては、「Spotifyモデル」と呼ばれるSpotifyが開発したアジャイル組織化のフレームワークが有名です。2012年にホワイトペーパー『 Scaling Agile @ Spotify(※2)』が公開されています。
 

Spotifyモデルでは「Squads」と呼ばれるプロダクト開発を行う小さなチームを基本として、複数のSquadsの集まりである「Tribes」、スキルに基づいてSquadsのメンバーをグループ化した「Chapters」、同じ興味を共有するチームを接続する「Guilds」よって構成されています。
 

(「Scaling Agile @ Spotify」より)

内容としては、広範囲に分散したチームでも良いプロダクトを開発できるようにするため、スモールチームに焦点を当て、個々のチームがクロスファンクショナル、自己組織化、そしてプロダクトオーナーシップを持つとされています。
 

Spotifyモデルですが、このような組織構造にするためには、大幅な組織変革が必要で、簡単にできるものではありません。しかし、一方で従来の組織構造の中でも、組織運営にアジャイルの原則・アプローチを取り入れることにより、アジャイル組織化を目指すことができます。

私は今回「アジャイル組織化が実現された状態」として以下のように定義しました。
 

  1. 情報が可視化/共有され、心理的安全性が確保された自律型組織(チーム)運営により高パフォーマンス、属人化解消、働く人たちの高いエンゲージメントが実現されている。
     
  2. 定期的な振り返りを通じて、機動的な組織運営が可能であり、柔軟性・俊敏性が向上している。
     
  3. 小さな試行を繰り返し行うことにより、新しい仕組みの導入が容易になり、挑戦を恐れない姿勢が身についている。
     

このような状態に少しでも近づくことが、「アジャイル組織化」の取り組みであり、完璧でなくても、少しずつでも取り組むことにより、組織が変わっていくのが重要だと考えました。
 

管理部門のアジャイル組織化にあたっての問題

4月から取り組みを開始しましたが、進めていく中で事業部門で行っていたアジャイル化の取り組みとは大きな違い・問題があることが分かってきました。
 

組織内でサイロ化が発生している
 

管理部門では各人が特定の業務スペシャリストとなっているため、逆に自分の業務以外の他の人が何をしているのかを十分に把握できず、事業部門に比べて組織内でサイロ化が発生しやすい傾向があることが分かりました。管理部門間の横のつながりが弱いという課題を聞いていましたが、実際には部門内でも横のつながりが弱いのです。
 

このような状況では、既存の業務を実施する上では効率的ですが、全体最適を考慮して調整しながら仕事を進めたり、柔軟な対応を迅速に行うためには改善の余地があります。
 

まずは組織やチームのミッションのすり合わせを実施し、コミュニケーションを通してサイロ化を解消する必要があります。
 

危機意識の醸成が困難
 

組織の変革において、ジョン・コッターは「変革を導くための8つのプロセス」の第1段階目として、「危機意識を高める」ことを提唱しています。
 

現場(プロジェクト)でアジャイル化の取り組みを進める際には、「このままでは顧客から選ばれなくなり、他のベンダに仕事を奪われる」という危機感を醸成し、変化に対する前向きな姿勢を引き出せました。
 

ただ、この危機感の醸成という手法は、管理部門の取り組みにはやりにくいと感じました。理由としては、パフォーマンスが悪いと仕事を外されるわけではないため、効果があまり期待できないからです。
 

しかし、トップダウンで一方的に押し付けてしまうと、そもそもアジャイルのアプローチと乖離してしまいます。そのため、より丁寧なコミュニケーションを通じて、自分たちにどのようなメリットがあるのかを理解してもらい、前向きになってもらうことが重要だと分かりました。

アジャイル組織化を進めるためには

最初は、デイリースクラムや振り返りなどのアジャイルプラクティスを導入することで、管理部門内のチームビルディングを進めようと考えていました。しかし、先に述べた管理部門特有の違い・問題もあり、それだけではうまくいかず、先述した「アジャイル組織化が実現された状態」にはなりそうもないことに気づきました。
 

「アジャイル組織化」がうまく進んでいるかどうかは、「アジャイルのプラクティス(例えば、振り返りなど)を組織運営に組み込んだアウトプット(結果)」ではなく、「アジャイルのアプローチ・原則に従って、システム・人の取り組みを通じて目標に沿ったアウトカム(成果)が得られているか?」で判断しなければなりません。
 

アジャイル組織化は、目的ではなく、手段であることを忘れてはいけません。
 

まとめ

今回は、「アジャイル組織化」とは何か、管理部門におけるアジャイル組織化にあたっての問題点や注意点について紹介させていただきましたが、いかがでしたか?

組織のアジリティを向上させる取り組みは、皆様の会社でも進めたいことではないかと思いますが、同時に簡単にはいかないこともお分かりいただけたでしょうか。しかし、DX推進を進めていく上で、アジャイル組織化は避けられない課題です。

次回は具体的に、管理部門における「アジャイル組織化」の取り組みをどのように進めたか・進めているかを紹介したいと思います。


【参考文献】
※1…DX白書2023(https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html
※2…Scaling Agile @ Spotify with Tribes, Squads, Chapters & Guilds
https://blog.crisp.se/wp-content/uploads/2012/11/SpotifyScaling.pdf