はじめに
こんにちは、ENKです。
クラウドプリセールス事例紹介シリーズとして、当社のクラウドに関する取り組みの一端を紹介させていただきます。本記事は、ある程度のクラウドに関する知識を持った方向けの内容となっていますので、予めご了承ください。
第五回目のテーマは「パブリッククラウド比較」です。私の活動では、オンプレのシステムを移行する際のパブリッククラウド(以下「クラウド」と略)は何を選択すれば良いか、将来のマルチクラウドを視野に各クラウドの良いところを取り入れたいので比較検討したいなど、情報提供依頼の相談をいただくことがあります。その際にリファレンスとして使えそうな内容をピックアップしてみました。また、内容について細かく記載すればとことん書けてしまうので、本記事では大枠の記載粒度に留めたものになります。
なお、比較資料は2022年度の資料を用いているため、情報が古い可能性がありますが、その際はご容赦ください。
目次
- 今回の比較対象
- ざっくり比較
- 機能比較
- 非機能比較
- まとめ
- Appendix
1. 今回の比較対象
クラウドの利用は、言うまでもなく盛況の真っ只中にあり、さらに特定のクラウドのみを使用するケース自体がほとんどない状況です。これは、クラウドが提供するサービスの特性に応じて、お客様が適材適所に利用していることが実態だと思いますので、その使い分けのためにも比較が必要になります。
比較対象の選定については、皆様が普段からよく耳見する3大クラウドと呼ばれる、AWS(Amazon Web Services)、Microsoft Azure、Google GCP(Google Cloud Platform)の順で、クラウド界隈のリーダーとされているので、今回は上位2位の比較を主な対象にしたいと思います。GCPも加えたいところですが、筆者があまり詳しくないサービスになりますので、割愛させていただきます(申し訳ありません)。
2. ざっくり比較
お客様からクラウドの差をどう見ればいいの?といった質問に即答できる回答例を紹介します。どれも類似色はあるのですが、私的に特色が強いもので整理してみました。
AWS
- 10年以上の実績がある
- クラウド専業のインテグレーターが多く存在している
- 開発者にとって身近なサービスが多く、広く利用されている
- AWSエンジニアが市場に多い
- 学習する教材が充実している
- 回線接続のサービスが充実し、オンプレと接続した環境構築/運用がしやすい
Azure
- Microsoft 365 との連携が容易
- 画像認識、音声処理、自然言語処理など、幅広いAIおよび機械学習サービス
- EA契約などと組み合わせるとコストメリットが得られる場合がある
GCP
- AI/機械学習に強みを持ち、ビジネスや研究の領域で広く利用されている
- データベースサービスとしてクラウド上のspannerなど豊富なデータベースに対応している
3. 機能比較
提供されているクラウドのサービス自体の比較をしても甲乙つけ難いため、移行検討時に若干の差が出てくる代表的な部分を整理してみました。
移行検討寄りの機能観点クラウド比較表
項目 |
AWS |
Azure |
補足 |
---|
OS対応 |
Windows Server 2012、RHEL6以上をサポートしている |
Windows Server 2012、RHEL6以上をサポートしている |
ミドルウェア対応 |
サポートOS上で稼働のミドルウェアは、クラウドプラットフォーム問わず利用可能。ただしプラットフォームごとにライセンス価格が変わる場合があるため、各製品の調査が必要(特にDB系ライセンスが該当)。 |
同左 |
クラウド上での利用はライセンス形態の確認が必要であり、高額なライセンスはマネージドサービスへ移行していく事例が多い |
IPアドレスの継続利用(BYOIP) |
持ち込み自体は可能であるが、制約が多いため現実的に利用ができるかは検証が必要になる。 |
利用できない |
クラウドではIPアドレスではなくFQDNでのアクセスが推奨されるため、IPアドレスの継続利用は特殊なケースが無い限りIPアドレスを変更しての移行を検討。方法論として、VMware Cloud on AWSもしくは、Azure VMware Solutionを利用した、L2ネットワーク延伸によるIPアドレスの継続利用 |
HAクラスタ構成の代替手段 |
サードパーティーからクラスタ製品が提供されており、これを利用する必要がある |
WSFSは継続して利用可能 |
クラウド上では既に冗長化されたマネージドサービスが提供されており、クラスタ製品等を利用した対応は他に方式が無い場合に限定される |
ロードバランサーの代替手段 |
Application/Network/Gateway Load Balancerなどが提供されており、この機能で不足数場合は、Marketplaceでサードパーティーのロードバランサーを利用することができる |
Azure Load Balancerが提供されており、この機能で不足数場合は、Marketplaceでサードパーティーのロードバランサーを利用することができる |
クラウドサービスのロードバランサーはF5 BIG-IPのような高度なトラフィックルーティングではなく、クラウド内の仮想ネットワーク内のトラフィック転送がメインとなるため、既存と同様なトラフィック制御(iRuleなど)したい場合は仮想アプライアンスを用いることになる |
物理機器の対応(アプライアンス等) |
原則不可 |
同左 |
オンプレミス環境での利用継続を検討 |
4. 非機能比較
クラウドを活用するにあたって、安心、安全、安価に利用という観点で整理しています。
非機能観点クラウド比較表
項目 |
AWS |
Azure |
補足 |
---|
クラウドベンダーとの責任分界点 |
利用者とクラウドベンダーとの責任分界点の考え方 |
クラウドサービスSLA |
利用するサービスにもよるが、月間稼働率95.0% ~ 100%以上の定義となっている。またSLAが適用されるものは2台以上の冗長化構成などが必要となる。 |
利用するサービスによるが、月間稼働率95.0% ~ 100%以上の定義となっている。またSLAが適用されるものは2台以上の冗長化構成などが必要となる。 |
どのクラウドサービスでも可用性レベルは冗長構成を組んだとしてもスリーナイン(99.9x%)となり、フォーナインなどの高可用性を要求する場合は、停止に伴う費用対効果を考慮し、オンプレ利用とするかの検討が必要となる |
セキュリティ(FISC対応) |
対応しており、AWSとしてFISC対策基準および解説書が公開されている(第9版まで対応)。 |
対応しており、MicrosoftとしてFISC対策基準および解説書が公開されている(第9版まで対応)。 |
大手メガバンクや生保、証券様でもパブリッククラウドを利用しているため、特に問題なく利用可能 |
セキュリティ(コンプライアンスプログラム) |
対応しているコンプライアンス認証は、グローバルおよび各業界の認証に多く対応している。 |
対応しているコンプライアンス認証は、グローバルおよび各業界の認証に多く対応している。 |
コスト低減の施策提供 |
インスタンス利用料の前払いなどのサービスが充実して、用途に応じた買い方や変更が可能 |
インスタンス利用料の前払いなどのサービスが充実して、用途に応じた買い方や変更が可能 |
単にインスタンスの購入の仕方だけでも普通にクラウドサービスの利用に比べて1/2~3のコスト低減効果が期待できる |
学習コスト |
AWSから初心者向け教育資料やオンラインセミナーなどの専用サイトが公開されている。 |
Microsoftから初心者向け教育資料やオンラインセミナーなどの専用サイトが公開されている。 |
各クラウドベンダーの営業担当に問い合わせると、積極的に勉強会を提供してくれる場合がある |
クラウド市場の技術者数 |
クラウド市場シェアに応じて最も技術者数が多い |
AWSと比較すると技術者は多くなく、SI現場での人員調達難になる場合がある |
AWSはずっとクラウド市場ではリーダーの位置付けとなるため、その間に多くの技術者が育っている |
アカウント契約の準拠法 |
日本法(既定はワシントン州法) |
日本法(既定で日本法) |
運用で使うリージョンは原則日本のリージョンを利用することで当準拠法に従いことができます。日本以外のリージョンの場合は現地の準拠法が適用されるため、リージョン選択は細心の注意 |
5. まとめ
クラウド比較は、読者の関心や問題意識がある項目に焦点を当てて観点を整理することが必要です。通常は、お客様の比較観点をヒアリングして決定するのが通例ですが、今回は私の過去の事例から流用させていただきました。この内容が皆様のお役に立てることを願っています。