IoTのビジネス効果( 1 of 2 )

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IoTでデータはクラウドに集められる

はじめに

 2015年はIoT元年といわれていますが、IoTを怪しげなバズワードとして見る懐疑的な方も多いのではないでしょうか。

 2015年頃までのIoTの事例は、O2O(Online to Offline)マーケティングにおけるスマホへのクーポン配信のような販売促進、或いはディズニーワールドのMagicBandのようなエンターテインメントでの活用事例が目立っていました。そのため、生産や流通、販売などの実業の現場におけるIoTの費用対効果が分かりづらい、或いは自分達には関係無いと思う方が多かったと思います。
 また、「IoTはモノのインターネットである」という説明に納得感が無いことも、一過性の流行り言葉としてのバズワードの雰囲気を感じる原因だと言えます。

 しかし、IoTの推進で世界をリードしている Industrie4.0 や Industrial Internet が本質的に目指しているのは、製造を中心とした産業における堅実な「効率化」であり、「産業革命」と呼ぶほどの劇的な効率化に、本気で取り組んでいます。
 なお、Internet of Thingsという言葉は、RFIDの世界標準策定をリードしたMTIのケビン・アシュトン氏が1999年に使った造語です。乗車券や電子マネーで利用されているRFIDは、まさにIoTを先駆けて実用化した技術であると言えます。

IoTは、やや古くて新しい概念

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 1984年にTRONプロジェクトの創始者である坂村氏が提唱した「どこでもコンピュータ」や、1988年にゼロックス パロ・アルト研究所のマーク・ワイザー氏が提唱した「ユビキタス・コンピューティング」という言葉がありますが、これらは「人々の周囲に溶け込んだ機械(コンピュータ)が自律/連携して人々を支え、人々はより人間らしい活動に資源を割く」という社会を目指した概念といえます。
 「すべてのモノが繋がる」IoTが普及した社会の姿と、約30年前に「どこでもコンピュータ」や「ユビキタス・コンピューティング」が目指した社会は、本質的に同じと言えます。

 1980年代は、マイクロプロセッサのクロック数は16MHz程度であり、携帯電話は重さ1kg弱の端末によるアナログ通話がやっとサービス開始されたような状況でした。センサーも大型であり、たとえば現在スマホに搭載されているジャイロセンサーは爪先ほどの大きさもありませんが、当時のジャイロは現在より精度が落ちるにもかかわらず10kgもの重量がありました。
 しかし近年、通信速度のストレスがなくなったネットワークを通じて、遠隔地に所在する膨大なコンピューティング資源に自由にアクセスできるクラウドの定着と、スマホ等の急速な普及によるセンサーの小型化・高性能化・低価格化などが進み、ICT環境が成熟してきました。

 IoTと同じ概念や要素技術は30年前からありましたが、当時は性能や価格が普及を阻み、なかなか実験室の外へ飛び出すことができませんでした。
 ここ数年でICTが成熟してきたことで、ようやく30年前の理念が実現出来るようになってきたことから、再び注目を浴びてきてる。という見方もできるのです。

IoTで生み出せる価値はどこにあるのか

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 一般消費者のスマホやウェアラブルデバイス、或いは店舗に設置したビーコン発信機等をデータ発生源として、個客への価値創生を目指すコンシューマビジネスでのIoT利活用の領域では、グーグル、アマゾン、アップルのような巨大なプラットフォーマーが、テクノロジーおよびビジネスモデルの根幹部分のノウハウと、億人単位の登録者から発せられる膨大なデータを蓄え込んでいるのが現状です。
 実際に、アマゾンやアップルは自社サービスや製品の利便性やブランド価値を向上させることで、グーグルは携帯電話OSであるAndroidをメーカーに無償提供することで、世界中の一般消費者から、氏名、住所、年齢等の個人の基本属性情報を集めるプラットフォームを構築することに成功しました。そうして、個人の行動や消費活動などを通じた極めて私的なデータを、それぞれの企業が自社所有するクラウドに吸い上げています。まるで個人データのブラックホールのようです。

 今では、GPSを始めとしたセンサーが満載されたスマホを肌身離さず持ち歩く一般消費者の位置情報の捕捉は容易となり、一般消費者が世界に向けて発信するSNSやブログなどにより、購買や行動の特徴のみならず思想や信条すら把握できる場合もあります。
 経済合理性で購買が決まる企業間取引と異なり、一般消費者の購買意思決定では経済合理性よりも、個人の感性や自分を取り巻く人々の意見が決め手となることが多々ありますので、こうした行動や思想(情報発信)両面からの個人の生活に関わる情報は、日用品から高額品までの様々な個人向け製品のマーケティングにおける極めて重要なインプットとなります。
 取得する情報の種類が増えて頻度が上がるほど、個人の私的な生活が浮き彫りになっていき、その結果、マーケテイングの精度も上がります。

 だから、コンシューマ向けビジネスのプラットフォーマーは、例えば腕時計型や眼鏡型などのウェアラブルデバイスの普及に挑戦するなど、IoTを利用することにより更に多くの個人の行動データを吸い上げようとします。
 こうしたコンシューマ向けビジネスにおいては、一般消費者の活動データを押さえているプラットフォーマーがビジネスの覇者であり、そうでない企業はプラットフォーマーの情報を利用させてもらう弱い立場となります。

 こうしてみると、コンシューマ向けビジネスでは、ほんの一握りの世界的に成功している企業以外がIoTで事業の付加価値を高めることは難しそうです。
 そこで、IoT利活用のハードルを下げるために、シンプルに経済合理性が判断基準となる企業活動に目を向けてみたいと思います。

 企業活動でのIoT活用というと、まずは、本稿の冒頭に挙げさせて頂いた Industrie4.0 や Industrial Internet に代表される工業製品のモノ作りがあげられます。こうした製造業が目指しているのは、あくまでも効率化です。
 しかし、大手製造業であるほど、ムダ取りを極限まで高めるリーン生産方式や、多品種少量生産に対応するセル生産方式など、長年のカイゼンの積み重ねによりプロセスが洗練されており、また、50年近く前からPLC(Programable Logic Controller)の導入などによるIT化も進んでおり、モノ作りにおける効率化は成熟しています。
 すでに成熟している状態からの飛躍には非常に大きなパワーが必要です。例えば、試験で20点しか取れない科目の得点を2倍の40点にするより、80点取れる科目を1.1倍の90点に引き上げる方が、何倍もの勉強量を必要とするようなものです。
 そこで、ドイツは国家の規模で自国製造業全体の競争力強化に向けたステップアップ(第四次産業革命)に取り組んでおり、米国ではGEが有力他社を巻き込み、次世代のモノ作りの標準づくりや、更にはモノ作りをベースとしたコトづくりの新ビジネスをつくろうとしています。

 こうしてみると、製造業でのIoT利活用はコンシューマ向けビジネスよりも間口が広そうですが、それでも、高度な先進技術で業界の先頭を走っているようなトップ企業でなければ成果を出せないように思えてしまいます。
 しかし、まだ成熟していない領域もあります。土木系の社会インフラです。

 

IoTのビジネス効果( 2 of 2 )へ、つづく 〜

この記事を書いた人

齋藤 秀幸

齋藤 秀幸

大手SIer等を経て株式会社クレスコに入社後は、クラウドソリューション、SAP向けモバイルソリューション、IoTプラットフォーム等の企画/開発を手掛けてきた。現在の目標は、講演する際に眠り込んでしまう聴衆の数をゼロにすること。趣味はワインであったが、経済合理性から焼酎甲類に転向。情報処理技術者 ITストラテジスト、システム監査技術者、プロジェクトマネージャ

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