IoTのビジネス効果( 2 of 2 )

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普段人が立ち入らない場所にこそセンサーを設置して監視すると効果がある

IoTのビジネス効果( 1 of 2 )からの、つづき 〜

地味な世界でのIoTの価値

最も投資対効果が高いのは土木系の社会インフラでの活用

 IoTの利活用で高い効果を期待できるのは、土木系の社会インフラである橋梁やトンネルの保全です。

 工場という閉じられた空間では、ITの導入による効率化を進めることができました。
 しかし、道路や水道のような屋外に建設される長大な土木系の社会インフラでは、なかなかITの導入が進みませんでした。土木系インフラの保全に役立つ技術はあっても、あまりに対象範囲が広すぎることと、ライフサイクルが非常に長い(製造設備の耐用年数がおおよそ5年〜10年程度なのに対して、水道や橋梁等は40年〜50年の耐用年数)ために、先送りされてきたことが原因です。

 全国の水道管の総延長は60万km(稚内と鹿児島を自動車で120往復する距離に相当)あり、橋梁は70万橋、トンネルは1万本もあります。国や高速道路会社が管轄するインフラは定期的に点検されていますが、自治体管轄のインフラ(全ての水道管、トンネルの7割、橋梁の9割)の多くは、財政難と技術系職員の不足から必要なレベルの点検がされていませんでした。

生命や財産を守るために必要なメンテナンスと、そのコスト

 道路等の社会インフラの本格的なメンテナンスの必要性は専門家の間で議論されていましたが、行政等の施策にはなりませんでした。しかし、2012年の笹子トンネル天井板落下事故を契機として実現のための議論が進み、2014年の国土交通省令により、全国の自治体に橋梁やトンネルを5年に1度定期点検することが義務付けられました。

 しかし、自治体の9割が、国の財政支援がなければ満足な点検ができないと悲鳴をあげています。もちろん、国にも財政的な余裕はなく、国道の修繕費が10年間で2割も削減されてしまっているような状況です。

レガシーな社会インフラのメンテナンスに大きな課題

 さらに、こうした土木系の社会インフラは東京オリンピック(1964年)前後の高度経済成長時代に集中的に建設された経緯から、一斉に大規模修繕の時期を迎えます。10年後には、橋梁の4割強、トンネルの4割弱が建設から50年を超えることから、大規模修繕を検討しなければならない状態となります。

費用対効果を高めるためには、IoTを利用するしかない

 そこでIoTの出番です。
 橋梁を劣化させる通過車両の重量、振動、変形、温度によるたわみ、トンネルを劣化させる漏水等を、センサーによりデジタルデータとして取得して蓄積します。そして、蓄積したデータの変化から劣化状態を分析することで、効果的な修繕を計画することが可能となります。
 水道管においては、例えば漏水が疑わしい場合に、現在は地下や建築物に敷設された見えない水道管が発する音や振動を頼りに熟練作業員が漏水箇所の調査をしていますが、漏水特有の振動を検知するセンサーを設置することで、漏水箇所を特定するための調査コストを1/5にまで圧縮することも可能と見られています。

 社会インフラの保全におけるIoT化を進めることで、定期点検用の人員や車両などを必要とせずにリアルタイムで全体状況を把握するという画期的なオペレーションが可能となる上に、保全業務の職員や車両や資材を定期点検業務から修繕業務にシフトさせることにより修繕工事のスピードアップを図るといった保全業務全体の効率向上も期待できます。

IoT利活用による費用対効果と事業としての実現性

 こうしてみると、土木系インフラの保全へのIoT導入は、すでに効率化が進んでいる製造業よりも導入効果が大きそうです。ただし、長大な建設物や設備を対象としなければ費用対効果がでないことから事業規模が巨大となります。また、現実の土木事業では多くの利害関係者が絡むことから、政治的な意味でIoTの導入が遅くなることも懸念されます。

ここから先では、グッとスケールをコンパクトに、比較的小規模な企業でもスグに効果が上がるIoTの利活用として、資源回収ボックスを利用した古紙回収を取り上げます。

比較的小規模な事業なら、シンプルなデータで充分

古紙を効率よく回収するためにはどのくらい量が提供されたかを把握する必要がある

 ほとんどのスーパーマーケットには、資源回収ボックスがあります。スーパーマーケット等の資源回収ボックスから古紙を回収する事業では、回収ボックスの状態を把握せずにトラックで巡回するため、運送コストにムダがあります。
 事業者としては、業務合理化の観点からトラックの重量や容積の制限の範囲内で一度に可能な限り多くの貨物を積載したいわけですが、その目的で無人の回収ボックスの内容を作業員が目視チェックしては本末転倒です。そこで、全ての回収ボックス内の古紙の重量と容積をセンサーで検知して古紙回収事業者のオフィスで把握できれば、非常に合理的な配車計画を立てることが可能となります。
 こうして、回収ボックスに装着したセンサーから発せられるデータの活用により、運送コストを1/2から1/3程度に削減することに成功した古紙回収業者もあります。

身近で地味なビジネスで、IoT利活用の分かりやすい効果

 重量や容積を測定するセンサーやマイコンは技術的に成熟し汎用化しているため、低価格です。また、近年はIoTでの利用を想定したデータ通信サービスを月額300円程度から利用できます。
 また、データ通信の頻度やデータ量も少なく済むため、検知システムは乾電池で数ヶ月稼働出来る程度の低消費電力となります。検知システムのランニングコストとなる電池代と通信費の合計は、回収ボックス一箇所あたり月額1千円未満が想定されますので、仮に100店の食品スーパーに設置した場合の検知システムのランニングコストは10万円未満ということとなります。
 2トントラックによる定期ルートの回収作業を外部委託した場合の費用を月額60万円とした場合、回収車を1台減車できただけでも50万円、2台減車できれば110万円のコスト削減効果となります。これは、目に見える分かりやすい効果です。
 さらに、この仕組みは、空缶・空瓶や、ペットボトル等の回収にもそのまま転用可能であり、複数品目のリサイクルを手掛ける事業者であれば、より大きなコスト削減効果が期待できます。

測った重量をデジタル化することでIoTの仕組みに組み入れることが可能となる

 テクノロジーやアイデアに新鮮さも無く、拍子抜けするほどシンプルな仕組みです。しかし、現実の身近な業務において、センサーから得られるリアルデータを、通信回線を通じて、クラウド等のサーバで集計し、その結果を利用して事業のオペレーションコストを削減するというビジネス目標を達成するIoTが実現されています。

最後に

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ローテクなビジネスこそ、IoT

 回収ボックスの中身の重量をセンサーで知るという方法はシンプルなので、誰でも思いつきました。また、検知機は汎用品の組み合わせなので、数量が増えればコストが下がることも分かっていました。
 しかし、数年前まではサーバの費用とデータ通信費用が、こうしたICTの活用におけるコスト面のボトルネックになっていました(クラウド普及以前からサーバ機器の価格は下がっていましたが、機器を導入/保守するためのIT技術者が必要でした)。

 コスト面のボトルネックであったサーバ費用とデータ通信費用が、ここ数年で急激に下がったことで、ごく一般的な企業でもIoTへの設備投資に見合うコスト削減効果が視界に入ってきたのです。
 投資が回収できる見通しが立てば、投資の規模を大きくすることで費用対効果(コスト削減効果)が高まります。これは、事業者のモチベーションとなります。

EXCELベースの管理でも、充分にビジネス効果が出る

 私達の身近にあるビジネスにおけるIoT利活用のポイントは、ICTのコストが下がったことにより、ムダが多いにもかかわらずムダの見える化ができなかった業務が、ようやく見える化できることです。
 アナログやローテクと言われてきた企業こそ、その効果を享受できます。

 例に上げた古紙回収であれば、各回収拠点の回収ボックスのセンサーから通知される重量や容積に対して、満杯の70%等の閾値を設定し、閾値を超えた回収拠点だけに配車するというような業務オペレーションとします。
 一定期間の実績を集計すれば、従業員や車輌の負担を増やさずに減車することが可能となり、事業コスト削減が実現されます。このようなIoTの利活用に、特別な知識/技術は不要です。EXCEL等の使い慣れた汎用ツールの活用で事足りるケースが多いでしょう。

 このように、多種多様なデータが無くても、データ・サイエンティストがいなくても、私達の身近なビジネスでも、IoTの利活用はできるのです。
 単機能のセンサーからのデータを、使い慣れたEXCELで活用することによる業務オペレーションのカイゼンから、IoTの利活用に取り組まれては如何でしょうか?

この記事を書いた人

齋藤 秀幸

齋藤 秀幸

大手SIer等を経て株式会社クレスコに入社後は、クラウドソリューション、SAP向けモバイルソリューション、IoTプラットフォーム等の企画/開発を手掛けてきた。現在の目標は、講演する際に眠り込んでしまう聴衆の数をゼロにすること。趣味はワインであったが、経済合理性から焼酎甲類に転向。情報処理技術者 ITストラテジスト、システム監査技術者、プロジェクトマネージャ

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