IoTを検討する前に知っておきたいセンサーの話

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IoT案件に関わるなかで、『センサー』という言葉が曖昧であることが気になっていました。

そこで、ICTの専門家ではないユーザ企業や、センサーの専門家ではない(私達のような)ソフトウェア屋がIoTを検討する際に『センサーという言葉のイメージが大きくブレない』程度にイメージを合わせることを目標に解説したいと思います。『イメージ合わせ』を目的とするため、センサーの専門家の方からすると正確ではない説明が多いかと思いますが、ご了承ください。

なお、ここではセンサーがIoTゲートウェイに接続される構成を前提としています。また、ICタグとリーダー装置の組み合わせもセンサーとして扱います。また、センサーだけに留まらず、センサーの接続先となるIoTゲートウェイについても触れていきたいと思います。

※当社(株式会社クレスコ)がご提供するIoTプラットフォーム「KEYAKI」はIoT装置からネットワークを経由してクラウドにデータを集約するソリューションです。当社は、IoTのコンサルティングやシステムインテグレーションを承りますが、BLEビーコン等のハードウエアの生産・販売はしておりません。

センサーを3つの構成要素に分ける

センサーは、対象物の状態(温度、照度、などなど)を、電気信号に変換するものです。装置 > モジュール > デバイスと、細分化できます。

ソフトウェア屋は、装置のことを『デバイス』という場合が多く、「IoTデバイス」と言う場合の多くは、『装置』を指します。しかし、ものづくり業界でいう『デバイス』は(最小単位の)部品です。

ソフトウェア屋と、センサーメーカーのようなハードウェア屋が会話するときは、言葉の定義の違いに注意が必要です。

センサーデバイス

ずばり、「部品」です。イメージとしては、数ミリ四方の固まりから電線が2〜3本伸びているものです。

センサーデバイスは、対象物の物理的/化学的な状態(音/超音波、光/赤外線、圧力、振動、方位/加速度、ガス/アルコール、などなど)を電気信号に変換するものです。最もシンプルなセンサーは、微弱な電圧の変化のようなアナログ信号を出力しますが、今日では、アナログ出力センサーと同等の外観・価格帯のデジタル出力センサーが普及しています。これらのデジタル出力センサーは、アナログ出力センサーと同等サイズの部品の中で、アナログに検知した信号をデジタル変換します。

信号はデジタル出力されるほうが扱いやすいことは言うまでもありません。しかし、IoTにおいては、デジタル出力センサーは必ず電源を必要とすることに注意する必要があります。なぜ注意が必要なのかというと、IoTではセンサーを電池で駆動させたい場合が多く、その場合は、ほんのわずかでも消費電力を削減して電池を長持ちさせたいからです。

余談:
モーターなどを搭載した機械装置になれたハードウェア屋の中には、「(動力と比べれば)センサーの消費電力などは無視できるほどに少ないもの」と考える方もいますので、電池交換を減らすために僅かでも電力消費量を削減したいIoT屋と、話が噛み合わない場合があります。

一方で、ソフトウェア屋が「大容量電池を搭載した電気自動車であればセンサーの消費電力など気にならないだろう」と思っていても、自動車メーカー側は駆動力以外の電力消費は極限まで減らしたい。と考えています。数十グラムのセンサーであっても、重量1トンを超える自動車であっても「電池駆動である以上は、電力消費を抑えて長持ちさせたい」という思いは同じなのです。

センサーモジュール

イメージとしては、剥き出しの基盤にデバイスを始めとした電子部品がハンダ付けされたものです。デバイスからの信号を、電子回路で増幅したり、補整/整形したり、デジタル変換したりします。

モジュールには、電源入力や信号出力の端子類があります。なお、モジュールは基盤や端子が剥き出しでカバーもありませんので、このままでは建物等に設置できません。

センサー装置

イメージは、手に持てる程度のサイズのハードウェアパッケージです。

マイコン等のデータ処理機能を内蔵しており、検知した信号を加工して「情報」として出力します。市販のセンサー装置は、LEDランプ、ディスプレイ画面、ブザー類、出力端子、有線LANやWi-Fiなどにより情報を出力します。電源装置と共にケースに収まっており、ケースは耐候性を備えている場合もあります。

IoTの『装置』は、カスタムメイドとなる場合が多いです。実証実験段階であれば、(電子工作的な)文字通りの『手作り』装置となる場合も珍しくありません。

IoT案件における市販のセンサー装置

IoTでセンサーを使いたい場合のニーズの多くは、フロア全体などのいわゆる「面の変化」を捉えるために、多数の観測点のデータを定点的に取得したい。或いは、機械装置等の「状態の変化(稼働中/停止中のような大きな変化)を遠隔から知りたい」といったものです。

センサーメーカー製の市販のセンサー装置の多くは、対象物を高精度に計測できますが、IoT案件で高い精度が必要となった事はありません。高性能/高機能であるゆえに高価な市販のセンサー装置は、IoTに適さない場合が多いのです。

センサーにはパッシブ型とアクティブ型がある

パッシブ型センサーは、対象物が発する熱や光などを検知します。圧力センサーのように対象物と接触して検知する場合もあれば、照度センサーのように対象物から離れて検知する場合もあります。センサーというと、パッシブ型をイメージすることが多いはずです。

アクティブ型センサーは、
①センサーの発信部から赤外線や超音波を一定間隔で発する。
②対象物から跳ね返ってきた赤外線や超音波をセンサーの受信部で受ける。
③発信してから受信するまでの時間から、距離を算出する。
という仕組みで動作します。センサーの最小単位は、デバイスではなくモジュールです。

アクティブ型センサーは、干渉問題と電力消費に注意

同一エリアで複数のセンサーを設置する場合に、センサー1号機が発した信号をセンサー2号機で受信してしまうくらいに密集してアクティブ型センサーを設置すると、センサー間で干渉してしまい、思い通りに動作しない場合があります。

そして、それよりも大きな問題があります。

それは、発信部と計算処理をもつアクティブ型センサーは電力を多く消耗してしまうため、電源ケーブルを必要とすることです。したがって、美観やビル管理規則等によりセンサーを設置したい場所に電源ケーブルを這わせることができない場合は設置できません(電力消費量の問題で、マイクロサーバによるIoTゲートウェイも同様です)。

有線ケーブルか無線通信でIoTゲートウェイと接続

センサーモジュールは、IoTゲートウェイと接続する必要があります。接続方法は、コストと運用負荷の観点からは有線ケーブルがベストです。ベストである理由は、シンプルであるゆえに導入も運用も低コストとなるためです。

ユーザの期待とコストの現実

IoT案件では、「センサーとIoTゲートウェイを無線で繋ぐ方法はないのか?それを考えるのがシステムインテグレーターの仕事ではないのか?」というお話になりがちです。

しかし、それを実現しようとするならば、センサー装置に無線通信モジュールと電源を搭載することになりますのでハードウェアの価格が一気に跳ね上がります。そして、「作り込みはコストが掛かる。既製品は無いのか?」という問いも必ず出ますが、結局は、
①要求にフィットした既製品が無い。
②既製品はあるが、非常に高額である。
という結論になってしまいます。

また、センサー装置とIoTゲートウェイ間の無線通信設定が必要となるために、システム運用の負荷が上昇します。また、IoTシステム内の輻輳や別システムとの電波干渉など、無線固有の問題の原因ともなります。これは、実証実験段階ではあまり問題視されませんが、大量の台数を本番運用するとなると、頭が痛い問題になります。

さらに、センサー装置の無線通信に関する作業負荷を軽減するために別のソリューションを導入したり、運用機能を作り込んだりすれば、さらにコストアップします。そうして複雑性が高いシステムになってしまい、システム維持管理のために専門家(ITエンジニア)を必要とする。というコストアップの悪循環に陥りかねません。

残念ながら、業務ユーザ(そして、意外と多くのICTベンダーの担当者)はセンサーが無線で繋がるという先入観を持っている事が多いので、ここは丁寧に説明して理解頂くことが肝要です。これは、業務的な要求事項とは関係なく説明できるので、わかりやすい説明資料を作っておくことをおすすめします。

IoTゲートウェイ

この言葉には様々な定義付けがあります。ここでは、センサー装置と、サーバー等(データを処理/管理する側)をネットワーク的に結びつける装置を示すものとします。

マイコンとマイクロサーバの違い

※写真はマイクロサーバ(ラズベリーパイ)

マイコンとマイクロサーバには、見た目には違いがほとんどありません。最大の違いはOSの有無です。Linuxのような汎用OSが動くマイクロサーバのほうが、マイコンよりもアプリケーションソフトウェアの柔軟性が高くなります。しかし、ハードウェアにマイコンよりも高いスペックが求められ構成も複雑になるので、ハードウェアのコストアップ要素となります。

そして、ハードウェアコストよりも重要な違いがあります。

それは、汎用OSが動くマイクロサーバーには何らかのシステム運用が必要となることです。特にセキュリティ対策は必須です。汎用OSの一部となっているソフトウェアにセキュリティホールなどが発見された場合は、ソフトウェア提供元から修正パッチなどが提供されます。しかし、そのパッチを適用するというサーバ運用が必要となります。これは、非常にコストが掛かることです。そして、この議論はウヤムヤ(見て見ぬふり)にされがちです。

スマホをIoTゲートウェイにする

個人の私物スマホを前提とするケースと、企業が用意するケースがありえます。現実には、私物スマホを前提とするケースがほとんどです(社内利用であっても、です)。

個人の私物を前提にサービス設計すると、さまざまな障壁に悩まされますので、対策として、会社が従業員に配布しているスマホを利用する。来訪者に社用スマホを貸与する。といったアイデアがでます。

コモディティ化したAndroidスマホであれば、GPSを含め様々なセンサーやカメラを内蔵した新品を1万円台前半の価格から入手可能です。コンパクトなケースに電池も入っていますので完璧です。ですから、こうしたスマホをIoTノードとして使おうという発想です。これは経済合理性が高いナイスアイデアに思えます。

しかし、落とし穴があります。

スマホはパソコンと同等の情報機器であるため、企業としてはスマホを紛失・盗難すればセキュリティ事故扱いとします。社員が携行している通話用のスマホであれば、セキュリティ事故が発生した時の責任の所在はシンプルです。しかし、IoTゲートウェイとして利用されているスマホを盗難/紛失した場合に情報セキュリティ管理の責任を負うのは、サービス部門なのか、設備管理部門なのか。といったような問題が発生します。IoT担当者が「このスマホはIoTゲートウェイなので、個人情報や営業秘密はありません」と言い張っても、企業で情報セキュリティを管轄している部署がIoT用スマホを例外扱いすることはありません。

おわりに

丈夫で高機能な汎用マイクロサーバは一台あたり数万円の価格ですから、事業活動としての費用対効果を意思決定者がハラオチしない限り、汎用マイクロサーバが大量に導入されることはありません。

※実験やホビー向けのマイクロサーバとして有名なラズベリーパイは、堅牢ではありませんがお手頃な価格です。お手軽といっても、一台あたり五千円以上になります。

IoT案件に限らず、新しめの技術を使った新サービスでは、必ず「実証実験の結果を、そのまま展開して運用しよう」という話が出てきます。

ビジネスピードという観点で反対する声は少ないでしょう。しかし、IoTは現実世界を相手にしますから、ハードウェアは重要な要素となります。「実証実験の結果を、そのまま展開して運用しよう」という発想は、本番運用の中でソフトウェアや業務オペレーションのアップデイトを繰り返していく前提です。しかし、ハードウェアのアップデイトには大きなコストと作業が必要です。

ICTでは『コスト削減の観点』から「作り込みは悪、既製品の採用は善」という風潮がありますが、大量のIoTゲートウェイの導入を考えるなら、『コスト削減の観点から』必要な機能だけに限定したコンパクトな「専用ハードウェアを作り込む」ことを真剣に考慮すべきです。

まず市販モジュールを組み合わせた手作り装置で検証し、次にハードウェアを試作して検証し、その次に少量生産して運用試験し、最後に量産して展開・運用する。というようなステップを踏みます。なお、先述のように、汎用OSを利用した装置を利用する場合は、セキュリティ運用の考慮も必要です。

数千台の仮想サーバの管理はソフトウェア制御を作り込んで無人化できますが、数千の物理的に独立したハードウェアの管理は、そうはいきません。プログラマブルでバーチャルな世界に慣れてしまっているソフトウェア業界の私達は、「IoTは物理的なモノを扱うのだ」という意識を強く持つ必要があります。

この記事を書いた人

齋藤 秀幸

齋藤 秀幸

大手SIer等を経て株式会社クレスコに入社後は、クラウドソリューション、SAP向けモバイルソリューション、IoTプラットフォーム等の企画/開発を手掛けてきた。現在の目標は、講演する際に眠り込んでしまう聴衆の数をゼロにすること。趣味はワインであったが、経済合理性から焼酎甲類に転向。情報処理技術者 ITストラテジスト、システム監査技術者、プロジェクトマネージャ

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