APIエコノミーの価値を考える

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APIエコノミーのサムネイル

 「API経済圏(APIエコノミー)」というキーワードがあります。

 ICTサービスを利用する立場の方は、APIというキーワードをご存じないでしょう。逆に、ICTサービスを提供する立場の方であれば、APIには詳しくても、APIと経済圏(エコノミー)との繋がりにピンと来ないかもしれません。

 そこで、APIの特徴を踏まえて「経済圏」と呼ばれている理由を確認し、さらに、攻めのIT経営におけるAPI経済圏(APIエコノミー)の価値を考えていきたいと思います。

はじめに

 東京ガス様の施設において、来場者の動きをIoT 機器により収集し、データアナリティクスにより分析して可視化する実証実験をしています。この実証実験の仕組みは、当社がIoT プラットフォーム「KEYAKI」を利用して構築しました。

 KEYAKI は、利用者が様々な機能を提供するAPI をフルに利用することが可能なWebAPI サービスです。WebAPI はインターネット上のどこからでも、OS や言語の制約を受けずに利用可能ですから、KEYAKI を既存のWeb アプリケーションやスマホのアプリケーションに組み込むことも、新規Web サービスで利用することも自由です。

 本稿は、この「API」に着目して、複数の企業がAPI で繋がる「API 経済圏(API エコノミー)」について、考えていきます。まずは、API 経済圏の前提となっているAPI の本来の特徴をみてみましょう。そうすることで、「API 経済圏」と呼ばれている理由がわかると思います。

APIのアーキテクチャー

 まず、「マイクロサービス・アーキテクチャー」と「モノリシック・アーキテクチャー」という対立する概念を確認していきましょう。

マイクロサービスとモノリシック

 マイクロサービス・アーキテクチャーとは、利用者から見て一つに見えるサービスを、独立した小さな機能群で構成する仕組みであり、各機能はAPIで繋がります。一部の機能が不具合を起こしてもサービス全体には波及しないことからサービス全体としての不具合への耐性が高いことにくわえて、分割された機能の単位で処理能力を増強することによるサービス全体処理能力の強化が可能であるというメリットがあります(具体的な説明は割愛します)。

 一方のモノリシック・アーキテクチャーは、一枚岩のような単一アプリケーションで全ての機能を実現します。全体サイズが小さく、処理速度が速いことがメリットです。

マイクロサービスとモノリシックの違い

図1-1. マイクロサービスとモノリシックの違い

アーキテクチャーの使い分け

 コンピュータが高価であった時代は、貴重なコンピュータ資源(CPU やメモリ)を最大限に活用する事を目的に、システム全体がコンパクトなモノリシック・アーキテクチャーを選択するケースが多かったのですが、今日では、コンピュータの普及とハードウェア技術の発達により、コンピュータ資源には余裕がありますので、コンピュータ資源有効活用の目的でモノリシック・アーキテクチャーが採用するケースはなくなりました。

 今日では、小規模なシステムの開発においては、コンパクト故に開発するボリュームが小さくて済むというメリットからモノリシック・アーキテクチャーが採用される場合がありますが、大規模なシステムでは不具合への耐性の強さと拡張性の高さから、通常はマイクロサービス・アーキテクチャーが採用されます。

API 経済圏(API エコノミー)

 次に、このマイクロサービス・アーキテクチャーの特徴を踏まえて、API 経済圏を見ていきましょう。

API により、他者のサービスを自社サービスに組み込む

 マイクロサービス・アーキテクチャーの各機能はAPI でつながっていますが、よく見ると社外のサービスに繋がっている機能があります。インターネットの普及と共に、この外部サービスと繋がる機能を取りまとめてWebAPIとして提供する企業が登場してきました。

開発範囲の違い

図2-1. 開発範囲の違い

 たとえば2000 年頃に決済代行サービスとして登場したペイパルは、100種類以上の通貨に対応し、年間30 兆円以上の決済を行っています。API 経済圏では、このように豊富な機能と安定した稼働実績を持つペイパルのようなサービスを、API により自社サービスに組み込んで利用する事が可能です。自前のシステムで仮に決済手段を増やそうとした場合は、ソフトウェアやハードウェアへのシステム投資と導入期間を必要としますが、API であればパラメーターを少し変えるだけで済みます。

 今日では、すでに、ここで例に上げた決済サービスなどのサービスは、APIサービスで利用するほうが一般的です。「API 経済圏」というキーワードが登場したのは最近ですが、実は、私たちは意識せずにAPIを利用しているのです。

経済圏(エコノミー)と呼ばれる理由

 API 経済圏(エコノミー)は、API ビジネス・エコシステムとも言われます。わざわざ「経済圏」と言われる理由をみてみましょう。

 有名な事例であるウーバーは、70 以上の国でサービス提供され売上高1兆円と言われているライドシェア事業をAPI 経済圏で支えています。ウーバーは、他社が提供するAPI を自社のサービスに組み込むことで、車両や乗客の位置の把握、ドライバーへの迎車の連絡、運賃支払等の機能を実現しています。

 また、API 利用者であると同時にAPI 提供者でもあります。ウーバーは自社車両を呼び出すAPI を他社に提供しており、ウーバーのAPI は航空会社、ホテル、レストラン等のスマホアプリに組み込まれています。

API 経済圏における提供者と利用者の連鎖

図2-2. API 経済圏における提供者と利用者の連鎖

 なお、API 経済圏(API ビジネス・エコシステム)は、アマゾンやグーグルのようなプラットフォームビジネスと異なり、自社がAPI 利用者にもAPI 提供者にもなりえることから、提供者と利用者の関係が比較的フラットであることも特徴です。

API 経済圏がビジネスで注目される理由

 ビジネスの側面からAPI 経済圏が着目されている理由は、スピードとイニシャルコストの低さにあります。

 API 経済圏の中では、すでに他者がサービス提供している様々な機能を自社の新サービスに取り込むため、新サービス立ち上のリードタイムが非常に短くなります。しかも、すでに多くの企業等が利用している実績があるAPI サービスであれば、はじめから品質が高いサービスを自社の部品として利用可能です。

 多くのAPI サービスのイニシャル料金は低額または無料であり、ランニング料金は利用実績に応じて従量課金されます。このイニシャル料金の低さが投資のハードルを下げることになります。

攻めのIT 経営に適している

 多くの企業が「攻めのIT 経営」に軸足を置きつつあります。

 新たな事業価値を創出する「攻めのIT 経営」では、新規ビジネス立ち上げのスピードと柔軟性が何よりも重要です。

※ 「攻めのIT 経営」は、経産省が積極的につかっている言葉です。(1)紙や口頭の業務をIT に置き換え、(2)IT を活用して社内業務を効率化、(3)IT を自社の競争力強化に積極的に役立てる。という3つのステージで構成されます。効率化を進めるステージ2が「守り」であり、競争力強化を図るステージ3が「攻め」となります。攻めのIT 経営の具体例として、販路拡大や新商品開発、新規ビジネスモデル構築が示されています。

攻めのIT 経営の試行錯誤の痛みを軽減する

 既存ビジネスの延長線としての新製品であれば、販売計画の立案や売上目標の設定は比較的容易でしょう。

 しかし、新規ビジネスモデルへの取り組みであれば、たくさんの失敗を経験せざるを得ません。自社に経験のない製品、経験のない市場、経験のない収益モデルや販売モデル・・・等を扱いますので、過去の経験をベースとした未来予測はできません。

 大きな投資をしてから失敗すると経営のダメージが大きいため、「リーン・スタートアップ」など様々なところで語られているように、小さな投資で小さな失敗をしてその失敗から学びを得るというプロセスを何度も繰り返し、軌道修正しながらビジネスを段階的に成長させることが、新規ビジネス成功の王道であることは言うまでもありません。

 新たな価値を創生する「攻めのIT 経営」は、このように試行錯誤の痛みを伴うことになりますが、痛みを無くすことはできなくても、初期投資を劇的に下げるAPI サービスを活用することで痛みを軽減させることが出来ます。

投資リスクの違い

図3-1. 投資リスクの違い

API 経済圏は万能ではない

 本格的(大規模かつ長期間)に利用する場合は、API サービスよりも自前システムを導入したほうがいい場合もあります。

 例えば、AI による画像判定のAPI サービスを利用する場合の多くは、画像を判定した回数に応じた(API の利用数に応じた)課金となります。API提供者からすれば、API 自体を商品としているのですから正直な課金の考え方でしょう。

 例えば、アミューズメント施設等の中で、監視カメラの画像からAI を利用して雑踏の中から迷子を見つけるサービスを開発するとします。そうした用途であれば、このサービスの費用は施設全体の費用に含まれ、入場料の原価となるでしょう。

 迷子の数に関わらず繁忙期か閑散期かの違いだけでAPI サービス提供者からの請求額が大きく変動するようであれば、収益計画の見通しが立たなくなるおそれがあります。しかし、自前のシステムであれば固定資産となるので、コストはコントロールできます。

 また、重要な機能を社外のAPI サービスに依存している場合は、当該企業がAPI サービスを中止してしまうと自社の事業も停止してしまうという事業リスクを抱えることにもなります。

 API サービスの活用は、新規ビジネスの投資リスクをAPI 提供者に転移していると言えます。API 利用者は、API 提供者に移転したリスクに見合う対価を支払っているのです。

 ハイリスク・ハイリターン志向により自前でサービスを開発した場合は、新規ビジネス立上げに成功すれば大きな収益を得ることが出来ますが、失敗すれば大きな損失を被ります。一方、API経済圏の活用により投資リスクを他者のAPIサービスに移転するローリスク・ローリターンを選択した場合は、新規ビジネス立上げに失敗した場合の損失は小さくなりますが、成功しても大きな収益は得られません。

投資リスクをAPI 提供者に移転

図3-2. 投資リスクをAPI 提供者に移転

 新規ビジネスの立上げは想定外の連続ですから、その都度、状況に応じた判断を下すしかありません。

 まずは、API 経済圏のメリットを最大限に活用して他者に先駆けてスピーディーに新規ビジネスを立上げ、ビジネスが成長していよいよ本腰を入れて取り組むべき段階に成長したと判断した時点で、自前システムへ移行するか、他者のAPI サービスの利用を継続するかを判断することになります。

API を活用するためのソフトウェア開発が必須である

 API サービス提供者の中には、ユーザー認証、決済、通知、位置情報などのICT サービスでよく利用される機能をAPI サービスとして提供している企業がありますので、部品として自社の新サービスに取り込む事が可能です。

 他者が提供するAPI サービスは部品です。そうしたAPI サービスを呼び出して繋げるためのソフトウェアの本体部分は独自に開発する必要があります。

 このソフトェア本体が、自社が顧客に提供する独自の価値そのものです。

API 活用アプリの開発範囲

図4-1. API 活用アプリの開発範囲

 API 経済圏に入ることにより、旧来のシステム開発と比較して開発量が大きく減りますが、価値を生み出す部分は独自でソフトウェアを開発する必要があります。また、ビジネスの特性に適した使いやすいシステムでなければ、顧客や従業員から使ってもらえません。さらに、業務システムにはサービスが止まらない仕掛けが求められます。

 こうした、使いやすさや止まりにくさは、API 経済圏の効果的な活用とは異なるノウハウであり、従来型システムインテグレーターが得意とするところです。つまり、API 経済圏を効果的に使いこなそうとするのであれば、自社が先端的ICT と業務システム開発の双方に長けた企業になるか、そうした強みを持つICT パートナーを選ぶことが必要となるのです。

クレスコの取り組み

 当社では1988年の創業以来、IT基盤構築や、金融・流通分野のアプリケーション、家電製品等の組み込みソフトウエア開発を強みとし、業務システム開発を行ってまいりました。それに加え、クラウド技術、AI/機械学習、IoT、データ分析等の先端技術を取り入れ、お客様の課題と変革に様々なITソリューションでお応えしています。

 KEYAKIは、センサーやビーコンを使ったアプリケーションの開発から運用までをサポートするプラットフォームです。KEYAKIと組み合わせて汎用部品であるAPIを利用することで、様々なIoTのシステムをスピーディーに構築することが可能となります。

 APIを利用したシステム開発について、ご興味・お悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

IoTプラットフォーム KEYAKI

用語解説

※「KEYAKI」の利用者がアクセス可能なデータの範囲は、その利用者自身が取得したデータに限られます。

※「API」とは、Application Programming Interface の略であり、独立したソフトウェア機能同士が互いにやりとりする仕組みです。API には歴史があり、様々な種類があります。

※「WebAPI」は、Web(インターネット)での利用を前提としたAPI です。API はインターネットが出現する前から存在していますので、Web 以外にもAPI は沢山あります。

※「API 提供者」には、営利企業だけでなく学術研究機関や官公庁も含まれます。さらに、個人もAPI 提供者となりえます。

この記事を書いた人

齋藤 秀幸

齋藤 秀幸

大手SIer等を経て株式会社クレスコに入社後は、クラウドソリューション、SAP向けモバイルソリューション、IoTプラットフォーム等の企画/開発を手掛けてきた。現在の目標は、講演する際に眠り込んでしまう聴衆の数をゼロにすること。趣味はワインであったが、経済合理性から焼酎甲類に転向。情報処理技術者 ITストラテジスト、システム監査技術者、プロジェクトマネージャ

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