AR とか MR とか VR とか

技術研究所の (あ) です。

マイクロソフトの HoloLens が (ようやく) やってきて、HMD (Head-Mounted Display) 界隈がまた新たな賑わいを見せています。しばらく前は Oculus Rift を使った VR (Virtual Reality) が大流行して、その後はよりお手軽なハコスコ、Cardboard が増えつつあるかなぁ、という感じだったところに、新たな流れを作ることができるのでしょうか。

マイクロソフトは HoloLens を MR (Mixed Reality) デバイス、と称しています。メディア・記事によってはこの MR という言葉をあたかも新たに発明された概念かのように書いていることもありますが、そんなことはありません。現実と仮想を融合、って言うけれど、それって AR (Augmented Reality) とどう違うの?

今回はその辺りを、歴史もふまえてざっと整理しておきたいと思います。

VR, AR

VR はユーザの感覚 (特に視界) を (外の) 現実の空間とは切り離し、人工的に構成された映像 (特に CG) などに没入させるものを指します。AR に関しては以前も書きましたが、現実世界に CG などの何らかの情報を重ね合わせるものです。

HMD を使った VR や AR の源流は実はかなり古く、1968年の Ivan Sutherland の研究にまで遡れます。HMD 以外で現実に映像を合成する、という話だと 19世紀の見世物で使われた「ペッパーの幽霊」と呼ばれる仕掛けにもたどり着きますし、ぐるりと絵で囲まれる空間、という話もやはり 18世紀末に登場していて、これらの話もひとしきり書きたくはなるのですが^^;、今回は置いておきます。

Virtual Reality という言葉が登場したのが 1980年代後半で、Augmented Reality は 1990年頃が初出です。この頃に盛んに VR や AR の研究が行われ、最初のブームといってよい状況が訪れました。1993年には ACM (Association for Computing Machinery) という学会の学会誌 Communications of ACM に “Back to the Real World” という AR の特集が組まれました。それよりも前、1992年には日立製作所の研究者の谷らが、カメラ映像越しに機器を操作するユーザインタフェース、”Object-oriented Video” という AR とはまた少し違った感じで現実と仮想が融合させたコンセプトを発案しています (四半世紀前ですよ?!)。

MR

人工的な (仮想、バーチャルの) 環境でユーザをすっぽり覆ってしまう VR と、対極として素のままの物理的な現実と、その間の現実と仮想の融合状態は AR も含めていろいろあるよね、連続的だと考えられる (Reality-Virtuality Continuum) よね、ということを述べたのが Paul Milgram らの 1994年の論文で、その中で「現実と仮想の融合状態」を指す言葉として MR が登場しました。AR を含み、より広い範囲を指すことになります。バーチャルの世界の中に物理的な現実の情報を取り込み混ぜ込んで反映させたような Augmented Virtuality という概念も出てきており、これも MR の一種、というように考えるのです。

もっとも、現実の物体などをきっちりと (リアルタイムに) バーチャル世界に取り込むのはセンシング技術も計算速度もなかなかたいへんなので Augmented Virtuality 的な実例は少なく、”AR” とほぼ同じ意味合いで “MR” という言葉が使われてきた例が多い印象です。

で、HoloLens は?

こうして見てくると、HoloLens で実現しているのは AR であり、MR は AR も含むので、“MR デバイス”と言ってももちろん間違いではありません (しかし重畳する CGオブジェクトのことを「ホログラム」と呼ぶのは、既に長らく使われてきている意味と (似ている部分もなくはないけど) 全く違うのでやめてほしかったなぁ)。間違いじゃないけど、“AR デバイス”でもよいじゃん、とも思えます。なぜことさらに “MR”を強調するのでしょう?

推測になってしまいますが、話を聞いていると、現実を拡張 (augment) しているというよりはバーチャルなものを現実世界に持ってこれるようにした、ということ主に主張したい、という感じでしょうか。さらに憶測を加えると、ここで言われているように “AR” という言葉が数年前のブームで「マーカを使ってスマホで実写に CG を重ねるやつ」という認識になっていそうなのを嫌ったのかもしれません^^;。

この先の時代には…

ここまでそれぞれの言葉の意味するところなどを説明してきましたが、こうしたある意味細かい言葉の区分けは、技術の発展段階だったり、深く考察せねばならないときには必要ですが、技術がこなれて世の中に溶け込んでいくにつれ普通のユーザの眼には触れなくなってくることの多い部分でもあります。VR も AR も MR も、これらの言葉はさほど遠くない将来にまた普通のユーザには「耳慣れない」ものになるのかもしれません。

「現実世界」と思っているものが一つの“Reality-Virtuality Continuum”になっていて、むしろ素の物理的現実世界を指すのに、特別な言葉 (たとえば、Real Reality?) が使われるようになったりすることも、ありうるかも…。


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