SIGFOX通信は、一方向通信で、基地局が通信を受信したという結果を端末に送り返してくる仕様はありません。
よって、通常のIP通信の実証実験のようにpingを打って、その到達の可否で通信OK、NGが判断できないため、通信結果はSIGFOXクラウドに表示された受信結果を、端末側が情報送信した時間と照らし合わせ、通信のOK、NGを判断します。
<実際のSIGFOXクラウドのインターフェース画面>
せっかくSIGFOXクラウドのインターフェイスを紹介したので、SIGFOX通信の特徴について少し触れさせていただくことにします。
通常のセルラー通信(携帯の3G、4G、PHS通信など)は多くの端末を接続するためにセル方式を採用しています。
セル方式の最大の特徴は、基本セルを形成する基地局とのみ、セルの範囲内にある端末が通信することです。そのため、端末と基地局が円滑に通信を行うために、隣り合うセル同士が電波干渉を行わないような工夫がされています。
<セル方式通信における基地局と端末の関係>
対してSIGFOXはセルのようなエリアをもたず、電波干渉等の対策を一切実施しません
通信品質を維持する対策として、1回の通信の際、周波数帯を微妙に変えて3度フレーム伝送を実施します。
また、通信可能な基地局全てに同じデータを送信します。
例えば、3つの基地局と通信可能という状況では、3回×3基地局で9回のデータ通信が実施されることとなります。
このうちの1回でも基地局に到達すればいいという考え方で、通信品質を確保しています。
<SIGFOXの通信方式>
一見、不安に思えますが、ウルトラナローバンドのSIGFOXは他の周波数帯の電波の干渉は受けにくい為、この対策で十分に品質が保証されます。
なぜ大丈夫なのか、もう少し詳しい話をしたい気もしますが、今回のテーマから、どんどん離れていきそうなので、それはまたいずれの機会にさせていただきます。
上記特徴を頭の片隅においていただいたうえで、実証実験の結果につい読み進めていただくと、「SIGFOX通信とはなにか」ということがつかみやすいのではないかと思います。
大きな実験項目は以下の4つです。
①基地局が順次建設されていた山手線環内各所での通信品質の確認
②ビル高層階および地下階における通信品質の確認
③海上における通信品質の確認
④移動速度による通信品質の変化の確認
①の実験は山手線に乗って実際に一回りして、各地点における通信品質を確認するという方法を取りました。
SIGFOXは移動に関しては徒歩程度の移動は通信品質を保持するが、高速移動には対応していないとの情報を当初より得ていたので、駅間の移動中は基地局での受信は確認できなかったのは想定通りでしたが、停車してドアが開いた際も、よほど駅舎に遮蔽物が少ない場所でないとすぐに受信はできませんでした。
プラットフォームに降りて、遮蔽物の少ない場所に移動すると受信が開始されましたが、結果的に、山手線の駅のプラットフォームの大半が低い場所にあるため、当初想定していたほどの結果は出ませんでした。
この実験では、SIGFOXの通信は通信端末のある場所に依存するということ(遮蔽物が少ないこと、通信可能な基地局が近くに多数あること)が確認できました。
山手線駅のプラットフォームは前述のように条件がよくないため、「都内のどこが通信品質がいいか」ということを厳密に調べるには、駅から出て、その地域一帯を歩き回る必要があることが解りましたが、時間の関係もあり、今回はそこまでの実験を実施することは断念しました。
ちなみに大まかな傾向として、実験を実施した時点で基地局の設置が順調に進んでいた山手線の南側の方が北側より受信品質は良好で、北側の大塚~田端までは駅のプラットフォームの環境にも原因ありと思いますが、まったく受信不可でした。
②の実験は東京の丸ビルで実施しました。
丸ビルの36F、高度約170mでの通信状況はきわめてよく、フロアの中心部の遮蔽物が多くあるところに移動しない限りはほぼ受信に失敗することがありませんでした。
高所では通信端末-基地局間に遮るものがないことが最大の要因だったと思います。
逆に地下階ではエレベーターや階段等で情報が吹き抜けになっている環境以外ではほぼ受信不可という高所と地下では全く逆の結果が出ました。
③の実験は日の出桟橋~お台場まで実際に水上バスに乗って通信品質を確認しました。
①、②の結果より、遮蔽物が少ない海上では電波の受信状態はいいはず。停船時~スピードに乗るまでは、かなり高品質の通信が確認できるはずと予測を立てて実験に
臨んだところ、結果は予測を大きく上回り、最大で20km/hの高速巡航時でも船室に入っていかない限り、かなり安定した通信状況であることが確認できました。
④の実験は今までの実験結果から、通信状況がよければそれなりの速度で移動しても通信が可能なのではないかと予測していました。
ただ、事前のプレテストでそもそも停止状態や、徒歩でも通信が不安定な環境を実験の場に選ぶと速度に関係なくほぼ受信できないということが分かっていましたので、これまでの移動実験で通信状況が優良な場所を実験の場として選択します。
安定した速度で走るためには駆け足等は難しく、疲労も激しくなることを考慮し、レンタサイクルを通信端末の移動に用い、速度はスポーツサイクル用のスピードセンサーとサイクルコンピューターで管理することとしました。
<実験風景の一幕>
その結果、残念ながら海上での20km/h近い速度域には及ばなかったものの、10km/h前後では十分良好な通信品質であり、通信状況が普通レベルの場所においても、7~8km/hの速度域の移動では歩行状態に近い通信品質であるという実験結果となりました。
<歩行時と10km/h移動時の通信品質比較>
赤いポイントがデバイスから情報を発信したポイント、青いポイントが基地局側で受信を確認できた通信となります。
通信状況がいい場所では徒歩(左図)と比較しても、10km/h移動時の通信の品質が遜色ない結果が出ています。
当初、実証実験の項目には含んでいませんでしたが、上記③の実験で、水上バスでお台場に移動した帰りはゆりかもめで新橋まで戻ってきたので、ゆりかもめの車中で通信品質を確認してみました。
ゆりかもめは山手線とは違い、見通しのいい高所を通っていくこともあり、丸ビルでの実験結果(上記②の実験参照)からも、「高い通信品質が期待できるのでは」との予想にたがわず、駅に停車してドアが開くたびに通信が確立しました。
基地局の方向によってはドアが開く前、ゆりかもめが減速している最中から通信が開始されることもあり、通信状況が良好な場所では、窓程度の遮蔽であれば電波は通過できる。通過できない電波強度でも、遮蔽が取り除かれれば(ドアが開けば)電波は回り込み、通信が確立することが確認できました。
当初想定していなかった実験でしたが、結果として、非常に意義のあるデータが取れたと思います。
以上の実証実験から確認できた内容を箇条書きで記載します
・通信可能範囲の屋外においては高い通信品質を有する。
・建物内においても遮蔽物の影響を受けにくい高所では高い通信品質が確認された
・遮蔽には弱い、壁や窓1枚くらいであれば問題はないが、建物の奥まった場所や地下では著しく通信品質は下がる
・遮蔽物がない海上では非常に通信品質がよい。
・人間が普通に歩くくらいまでの移動速度まではキャリアは通信品質を保証していたが、実際は時速7km~8kmまでは通信品質が保持される。
通信状況が良好な場所ではさらに早い速度で移動しても通信品質は保たれていた。
通信状況が極めて優良な海上では時速20kmくらいまで、高い通信品質が確認された。
・通信可能な基地局が複数ある場合、すべての基地局と通信する仕様のため、携帯電話やPHSのようなハンドオーバーという概念そのものがない。
そのため通信可能範囲に入れば即座に通信可能となり、可能範囲から出れば即座に通信不可になる。
上記の実験結果から考察するに、やはり屋外に設置したデバイスから、その時々にセンサの情報を定期的に送信したり、あるいは移動媒体に取り付けられたデバイスであっても、加速度センサ等で速度が遅くなった際、必要なセンサ情報を発信する等の活用が向いているように思われます。
通信状況が良好な場所であれば、屋内にある機器や製品の状態を監視することにも活用可能だと考えます。
いかがでしょうか、LPWAがどんなものか、また今後の可能性について見えてきた気がしませんか。
現状では、東京都内より大阪市内の方が基地局が充実しているようで、KCCSが公開した実験結果を見る限り、3月末時点では大阪市内の方が都内より通信状況はいいようです。
大阪市に拠点があるお客様からご相談を受けてられる方、大阪市で事業をしていてIoTの導入をお考えの方、SIGFOXをお試しになることが可能ですよ。
なお、大阪市以外のお客様も、2017年5月時点で以下の都市でSIGFOXネットワークが完成しています。
東京23区、川崎市、横浜市、大阪市
また、2018年3月までに以下の都市でもSIGFOXネットワークが完成予定です
札幌市、仙台市、さいたま市、川口市、越谷市、船橋市、習志野市、府中市、三鷹市、小金井市、八王子市、日野市、多摩市、国立市、立川市、相模原市、藤沢市、茅ヶ崎市、平塚市、静岡市、浜松市、名古屋市、新潟市、京都市、東大阪市、堺市、寝屋川市、門真市、尼崎市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市、鹿児島市
この記事を読んでLPWA通信に興味を持たれた方、上記地区でIoTの導入、テストをお考えの方、当社でもSIGFOXは扱えますので、よろしかったらお問い合わせください。